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□予想外ハッピーエンド
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※鬼道視点

「こらぁっ!木暮君〜〜!!!」
「うっしっし」

 休憩時間。それぞれの選手が早朝から続く特訓で疲労した身体を癒していると、不意に春奈の怒なり声がグラウンドに響き渡った。どうかしたのかと思わずそちらに視線を向けるとどうやら木暮を叱っているようだった。春奈の手元に蛙の玩具が握られている事から、ああ、また木暮にイタズラを仕掛けられたのかと容易に推測出来た。

「またか………」
 少し離れた場所で追いかけっこを始める二人の様子はエイリア学園を倒す為に各地を旅していた時から見慣れた光景だった。木暮のイタズラは春奈に構って欲しくてやっているじゃれつきみたいなものなので、仲の良い姉弟喧嘩を眺めているような微笑ましい気持ちになる。だが、毎回やられている春奈はそうもいかないようだ。

「木暮君っ!いい加減にしなさいっ!!」
「うっしっし、引っ掛かるお前の方が悪いんだよ!」
 だが木暮の態度はいつものことだが反省しておらず、ますます春奈の怒りを煽る。

「もう!キャプテンもなんとか言って下さいっ!
 木暮君ったら全然私の言う事聞いてくれないんです!!」
「え、俺か?」
「そうです!キャプテンからガツンと言って下さいよ!!」
 自分が言っても意味が無いと思ったらしく、春奈は近くにいた円堂にそう訴える。

「木暮、あんまり音無を困らせたらダメだぞ?」

 円堂は急に話を降られ困ったように苦笑を溢しつつも、木暮を諭すように優しくそう言った。
 木暮も流石にキャプテンである円堂にこう言われたら、春奈の時みたいに軽く流す事は出来ないだろう。
 


「……………なんだかマモル君と音無さん夫婦みたい」


「「……………えっ!?」」
 不意にその様子を見ていた久遠がそう呟き、それに円堂と春奈は二人してぼんっと効果音が付きそうなくらい顔を赤くさせた。

 …………まあ確かに、説教をしても反省する様子の無い子供に痺れを切らせ"もうっ!アナタからもなんとか言ってよ!!"と旦那に投げる妻という風にも見ようによっては見えなくはなかったかもしれないが。いやいやそうじゃないそうじゃないぞ、断じて違う。なにちょっと甘酸っぱい雰囲気になってるんだ、お兄ちゃんは認めないぞ春奈。

「なっなに言ってるんだよ冬っぺ!」
「そっそうですよ………!ふ、夫婦なんて…………!!」

 "夫婦"という単語に二人は予想以上に慌てて敏感に反応する。その様子がお互いに満更でもないように見えて、まさか、という予感が俺の脳裏を過った。横で不動が"鬼道クン、顔怖ェよ"とドン引きしていたが知るか。


「そう言われてみるとキャプテンと音無さんって意外とお似合いかもしれないッスね」
「というか、あの二人ってあの反応からすると案外両想いだったりして―――」
「シッ!」


「春奈と結婚したければ俺を倒してからにしろ円堂ォォォォォォォッ!!!!」



 *****


 …………10年くらい前、そういえばそんな事もあったなとふと思い出した。
 俺は輪から少し離れた場所で、純白のウェディングドレスとタキシードに身を包んだ二人をぼんやりと眺めていた。

「まさか本当に夫婦になるとはな………」

 中学を卒業して暫く経ってから、円堂が春奈と付き合い始めたと報告に来た時はあまりの衝撃に皇帝ペンギン3号を打とうか迷ったものだが(春奈に怒られて思い止まった)、流石にこの年齢にまでなって相手が不動かよっぽど変な奴ではない限り妹の結婚に口出ししたりはしない。
 …………そうなのだが、円堂は春奈の両親に挨拶に行くのより俺に結婚の報告に来る方が緊張したと言うし仲間達からも"よく鬼道が許したな!"とちょくちょく驚かれた。

 そんなに俺はシスコンだっただろうか、と思わず苦笑が溢れる。


「鬼道クン、主役が呼んでるぜ」
「ああ………そうみたいだな」

 不意に不動にそう肩を叩かれ二人の方を見てみると、確かに自分が呼ばれているようだった。
 俺は少しだけグラスに残っていたワインをグィッと一気に飲み干すと、そちらに向かって歩みを進めた。



「兄さん今日は来てくれてありがとう。大会も近くて忙しいのに………ごめんね」
「何を言うんだ。妹の晴れ舞台なんだ、なにがあっても来るに決まっているだろう」

 春奈はありがとう、と微笑みを浮かべた。その表情は幸せに満ちていて本当に綺麗になったなと思った。
 

「円堂、春奈の事は頼んだぞ」
「ああ、もちろんだ!」

 円堂はそう力強く頷く。………俺はな、円堂。お前だからこそ安心して春奈の事を任せられるんだ。俺は親友と妹の幸せを祈って心からの祝福の言葉を贈る。



「結婚おめでとう、二人とも」

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