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□彼を想う彼女の姿に恋をしたんだ
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※2期捏造
 円秋←夏前提


 キャプテンと木野さんが二人で観覧車に乗り込むのを見守りながら、ゆらり、とかすかに瞳を揺らした彼女の事が何故か妙に気になった。


「ねぇ、夏未さん」
「あっ、なっ、なにかしら?」
 お互いに照れ臭そうにしながら観覧車へ乗り込む円堂君と木野さんをぼんやりと眺めていると、不意に吹雪君が声を掛けて来た。私はそれに思わず珍しい、と感じた。彼とは選手とマネージャーの関係ではあるが、こうして個人的に話すのは今が初めてだった。
「良かったら僕と観覧車に乗ってくれない?」
「え…………」
 予想外の言葉に目を丸くする。確かに観覧車は見通しもいいし、二人の方が効率的にエイリア学園のアジトを見付け出せるかもしれない。現に先程、そのような言い分を述べて円堂君と木野さんを観覧車に乗るように仕向けたばかりだ。だが、女の子にモテる吹雪君がわざわざそれほど親しくもない私を誘った事に疑問が湧く。
「ダメかな?」
 不安そうに上目遣いでそう伺って来る吹雪君は、何だかしょんぼりと垂れた耳と尻尾が着いているような錯覚に陥った。
 …………まあ、断る理由も無いわね。
 …………何だか少しだけ、吹雪君がモテる訳が分かったような気がする。


 観覧車に乗って暫く経つと、段々とアトラクションや人が小さくなり始め遠くの景色も一望出来るようになった。普段なら感嘆の声を挙げていたかもしれないが、生憎今はそんな感傷には浸れなかった。
「わぁっ、いい眺めだね」
「ええ」
 吹雪君に適当に相槌を打ちながら、私の頭には先程の円堂君と木野さんの様子がこびりついて離れなかった。………こんなに後悔するのなら、やっぱり下手に発破をかけない方が良かったのだろうか。思わず溜息を溢す。
「キャプテンと木野さんがさ、」
「っ」
 不意に吹雪君の口から何気ない感じでその二人の名前が出てきて、私の心臓はどくり、と跳ね上がる。
「一緒に観覧車に乗っててすごく良さそうな雰囲気だったんだ」
 もしかしたら付き合ってるのかな、と笑顔で続ける吹雪君に私は自分の声が震えないように平静を装うことに集中する。心臓はどくどくと嫌な音を鳴らしていた。
「…………もしかしたらそうかもしれないわね、お似合いよあの二人は」
 言ってから、自嘲的な笑みを浮かべていたかもしれないと思った。
「夏未さんはジンクスは信じる?」
「え」
 吹雪君のその唐突な質問の意図が判らず、私は思わず訝し気に眉を寄せた。
「……………そうね、信憑性はともかく少しは気になるわ」
「それならさ、実はここの観覧車にもジンクスがあるんだけど、夏未さんは知ってる?」
「え……そうなの?」

「うん、なんでも気になる人と観覧車に乗るとその相手と結ばれるらしいよ」
「…………そうなの」

 吹雪君が語るジンクスの内容はテーマパークならどこにでもありそうな、そんな典型的なものだったけど今の私の心を抉るのには充分だった。
 …………きっと、そのジンクスは近い内に当たるだろう。お互いに気付いていないだけで、円堂君と木野さんは私や他の誰かが入る隙なんて無いくらい誰がどう見ても相思相愛なのだ。玉砕覚悟で円堂君に告白する勇気も無い私は、二人の仲を応援する事にした。つまり逃げたのだ。だが、そう決めたからと言って感情はすぐには追い付かない。あの二人が一緒にいる所を見ると、こうして胸にドロドロとした黒いものが競り上がって来るかのような不快感に苛まれる。

「僕はこのジンクスが当たるといいなぁって思うよ」
「………そうね、円堂君と木野さんなら当たるんじゃないかしら」

 私がそう言うと吹雪君は一瞬きょとんとしてから、違うよ、と苦笑を溢した。

「うーん、夏未さんって意外と鈍感?それともわざと?」
「えっ……私なにか変な事を言ったかしら………」

 困ったように曖昧な笑みを浮かべる吹雪君に、私はなにか失言をしてしまったのかと不安になる。

「ううん、なんでもないから気にしないで」
「そう…………?」


「だけど、絶対に振り向かせるから覚悟しててね」


 にっこりとそう言い放った吹雪君の言葉の意味がよく理解出来ず、私はますます頭に疑問符を浮かべるのだった。

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