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□どうか気付かないで、恋心
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※圭魅要素含


「うぅ〜っ、やっぱり無理だよぉ」
 お姉は頬をほんのりと赤く色付かせながら手元にある丁寧にラッピングが施された小さな箱を見つめ、そう情けない声を絞り出した。私はお姉のその様子に思わず溜息をひとつ漏らす。
「お姉、圭ちゃんに渡すんじゃなかったんですか?」
「だっ、だって………」
 お姉は普段の飄々とした態度からは想像出来ない、まるで子犬のように弱々しい視線をこちらに送って来る。
 今日は2月14日。バレンタインデーだ。
 お姉も想いを寄せる圭ちゃんに渡そうと手作りチョコを用意して、こうしていつもより少し早めの時間に待ち合わせ場所に集まり圭ちゃんを待っていたのだが………。このヘタレ姉、直前になって恥ずかしさが段々と湧いて来たようだった。
「お姉、いいんですか?恐らくレナさんも圭ちゃんにチョコを贈ろうとしてるはずですよ」
「うぅっ」
「お姉はただでさえレナさんに比べて状況が不利なんです!また差をつけられてしまいますよ!!」
「うぅっ〜………わっ、分かったよ………!」
 お姉は私のその言葉に渋々覚悟を決める。
「ほら、私も不自然じゃないように一緒に圭ちゃんに渡しますから」
「うん、ありがと………詩音」
 お姉はそれを私が気を利かせた好意だと受け取り、先程まで緊張で堅くなっていた表情を和らげる。ちくり。胸の奥が痛んだような気がした。


「おーい!魅音ー!詩音ーッ!!」
 不意に少し離れた所から圭ちゃんの私達を呼ぶ声が聞こえてきた。圭ちゃんは小走りでこちらに駆け寄って来て、あっという間に距離を縮める。
「はろろ〜ん、圭ちゃん!おはよーです!」
「お、おはよ、圭ちゃん」
「おうおはよう!なんだ二人とも、今日はやけに早いじゃないか」
 圭ちゃんの何気ないその言葉に、お姉は顔をますます真っ赤に染め上げる。
「あっ、あっあああああの、けけけけけけっ圭ちゃ」
「? なんだよどうしたんだ魅音?」
 緊張で挙動不審になるお姉に圭ちゃんは不思議そうに首を傾げた。………まったく、本当にこの子は世話が焼ける。
「圭ちゃんにハッピーバレンタインです」
「えっ?」
 私はそう言って彼に水色の包装紙に包まれた箱を渡した。
「えっ、いいのか?」
「言っておきますけど、義・理ですからね!
 私の本命は悟史くんだけなんですからっ!!」
「分かってるって!そんな強調しなくても!!」
 まぁサンキューなっ、と圭ちゃんは少し照れくさそうに笑顔を浮かべながらチョコを受け取ってくれた。それに思わず嬉しいと思ってしまった。
「けっ圭ちゃん、その、私からも………」
「魅音からだと!?おいもしかして針でも入ってるんじゃないだろうなぁ?」
「はっ!?いっ入れるわけないでしょそんなの!!」
 お姉がチョコを差し出すと、圭ちゃんは怪訝そうにそう言った。まぁ照れ隠しだろう。
 だけど圭ちゃんのその反応は変に緊張していたお姉のそれを解いたようで、二人の雰囲気は普段通りのものに落ち着いていた。デリカシーの無さもたまには役立ちますね、なんて心中で毒づいてみる。


「…………圭ちゃん、お姉のは生憎愛情しか詰まってませんが私のはちょっと余計なものが入ってますよ」
「なあっ!?なんだなに入れたんだ詩音ッ!?」
「ちょっちょっと!あっあっ愛情だなんてなに言ってんの!!」

 それぞれ違う反応を示す二人に思わず笑みが零れ、私はくるりと背を向けて歩み出した。



「鈍感な圭ちゃんには分かりませんよ〜!」
「なんだよそれ!!」



 ほんの少しだけ、義理じゃなくて圭ちゃんの事を好きだって気持ちをチョコに入れてしまったから。その想いは誰も気付かなくていい、余計なもの。だからどうか、気付かないでくださいね。………圭ちゃん。

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