□R団を出張らせたい。
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「ひっどい顔してるわねー」
「お前がそんな落ち込んでるのなんていつ以来だ?」
「ここ暫くは見てないニャ」
「ロケット団!?」


ひとり雪積もる森の中、倒木に腰を下ろしぼんやりしていた所に聞き覚えのありすぎる声が聞こえ、サトシは慌てて立ち上がり身構える。


「別になにもしやしないわよ」
「そうそう。俺達だって時と場合は弁えてるつもりだぜ」


そうか?と思わなくもないが、なら何をしに来たのかと問う。


「ただの通りすがりニャ」
「嘘だろそれ」


即座にばっさりぶった斬るサトシのセリフにぎくっとなる3人。コホン、とひとつ咳払い。


「ま、大体のことは見させてもらったわ」
「お前になにか迷いがあるのも判ってる」
「伊達に付き合い長くないからニャー」
「…そっか」


サトシは構えていた身体から力を抜き、再び倒木に腰を落とし、俯き黙る。


「…アンタが」


暫し互いに無言。それを破ったのはムサシ。


「アンタが、周りが思ってる程強くないのを知ってる」


ぴくっ、とサトシの肩が跳ねる。


「俺達はさ、お前さんが見るべきものを丸々見失った今回なんかよりもっと酷い敗北だって知ってる」
「ニャー達は知ってるニャ。おミャーが仲間にも、ピカチュウにさえ本当にキツいとき、ニャんも言わないのを」
「………」


サトシは何も言わない。長い付き合いというのはこんな時厄介だ。仲間ほど近い位置にいるわけじゃない。けれど遠く離れることはなく必ずそこにいる。一歩、離れた所から見ている。だからこそ、気づき見抜いてくるのだ。普段はドジでマヌケでも、彼等は大人でもある。


「ホント、難儀な性格してるわね」
「まぁ、ひとりになりたい時ってのは誰だってあるもんだ」
「ニャー達にしてみれば、今までよくもったと言いたいニャ」


ここに、かつてこの子供と旅をしていた糸目の少年がいたなら、どうだっただろう。こんな、ギリギリの状態になる前に気づき、心身ともに力を抜かせることができたのだろうか。

今、旅を共にしている者達には無理だろう。それは確信。妄信、依存、どこかそんな言葉を連想させる彼等。この子供を中心にしてあの者達はまわっている。

子供は言うだろう。彼等に頼ってばかり、甘えてばかりだと。けれどそれ以上に彼等を甘えさせている自覚はないのだ。

伸ばされる手を掴み、救いを求める声に応えることはあっても、子供からは手を伸ばさない。救いを求めない。


――オレさえしっかりしていれば。


そうして自分を責めるばかり。いっそ、他人のせい、ポケモンのせいにしてしまえば楽だろうに。そんなこと、絶対にするわけがないのは判っていても思ってしまう。


「ジャリボーイ」
「ーっ!?」


すっかり定着している呼び方。今更名前で呼ぶことはできそうにない子供を呼びながら、ムサシとコジロウは子供の肩と頭にそれぞれぽんと触れたあと、子供のすぐ後ろに背を向けた状態で並んで座る。


「あーもう、つっめたーいっ!」
「さっぶっ!ジャリボーイよく平気だよなぁ」
「ろ、ロケット団?ーわっ!」


急に触れられ後ろに座られ困惑し、振り返ろうとするも、ニャースに帽子のつばを下ろされ防がれて、ますます訳が判らない。背後から息を吐き出す音が聞こえる。


「……背中くらい貸してあげるから、ちょっとは寄りかかんなさい」
「そうそう。俺達なら遠慮もなにもいらないだろ?」
「ニャー達は森で迷って休憩してるだけニャ。知り合いに会って一緒に暖をとった、それだけニャ」


戸惑う気配。少しのあと、とん、と僅かな衝撃。触れる背中は、ひどく軽く、小さく感じた。

寄りかかれる存在が無いというのは、どれほど辛いことだろう。苦しいことだろう。どれほど、寂しいことだろう。それでも、涙を見せることは絶対にない。今もまた。

自分たちはなんだかんだで持ちつ持たれつ、3人でひとつ、ダグトリオとでも言うべき間柄だが、子供と仲間たちは違う。子供と仲間たちの間には、距離がある。

自分たちは、この子供の仲間ではない。けれど、見て見ぬ振りができるほど細い繋がりでもない。

溺れそうになっているなら、自力で這い上がれる所まで引き上げる、それくらいはしてしまう。伸ばされることのない手を無理矢理にでも掴んで。

結局自分たちも。この子供が好きなのだ。自分たちの前では、子供であれればと思う。子供であることを忘れないでほしいと思う。


「……ムサシ、コジロウ、ニャース」


ずっとだんまりだった子供が呼ぶ。ロケット団と、一纏めではなくそれぞれの名を。


「………、ありがとう」


その言葉は、確かに3人に届いた。響いた。それで十分。口許が緩む。

今、この時が過ぎれば、またいつもの追って追われての敵同士。



子供は前を真っ直ぐ見据え仲間と向き合い、歩きだす。

大人は子供のポケモンを狙い、時には手を貸し進みゆく。


子供の心内を知るのは、この地方では自分たちだけ。この先も、子供は誰かに話すことはないだろう。ならば、自分たちが息継ぎをさせてやるしかない。潰れてしまわないように。壊れてしまわないように。


それだけは、見たくないのだから。









閲覧ありがとうございました!

くよくよタイムなんて五秒で十分!アンタもそうでしょ。とか、完全に見失っちゃいないだろ?お前は知ってるはずだ。とか、日頃からポケモンバトルは1人じゃできニャいと言ってるおミャーがなんで1人でいるニャ。とか。

言わせたかったセリフ。
書いてるうちに入れどころ消え失せました。文書くのって難しいですね。


 
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