ぼくらのねーちゃん。

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そんなこんなで、六つ子の中でも面倒くさめな二人に隠そうと思っていた記憶喪失が速攻バレました。

「ちょっと二人とも!帰ってきたならただいまくらい言えよ!」
「いや、ちゃんと言ったぞ」
「ただいマッスルマッスルゥ!ハッスルハッスルゥ!!」

か、か、か、可愛い…!!!!

カラ松ほんとにサングラスかけてるし…!!!!十四松も本当にこんな狂人っぽい感じなの…!?ハッみんな肌がツルツル毛穴が見当たらない…!!私のクレーターのようなお肌とは桁違いだわ…。

「確かに!!!」
「えっ」





私の記憶喪失事情を、ツラツラとチョロ松が二人に説明する。記憶喪失で片付けられたならいいものの、異世界に飛んできてしまっただなんて。この歳で魔法少女になりますっていうのと同じくらい恥ずかしい!!!しかし、割とすんなりとそれは受け入れられた。いや、受け入れざるをえなかった。今もこうしてみんながねーちゃんねーちゃんと私を呼ぶのだから。十四松がすりすりと頬を私の頬にくっつけてくる。かわいい。

「ちょっと十四松、聞いてる?」
「んーだってなんか難しいし!まゆねーちゃんはまゆねーちゃんなことに変わりはないでしょ?だからいい!」
「確かに!ねーちゃんはねーちゃんだしな。俺らのねーちゃんだってことを忘れてるくらい大したことないっしょ。まゆねーちゃんがねーちゃんとして俺らの人生に与えた影響もそんなないし
「お??」

完全にナメてやがる。
こいつら私をナメてんのかシスコンなのかどっちかにしろ!出来ればシスコンであってくれ!お願いします!(…。)

「まあ、なんとなーくわかるだろうけど、俺らはねーちゃんのこと大好きなわけよ〜。ね、だからねーちゃん俺と今晩セッ」
「言うなあ!!今なんて言おうとした!いや言うな!言わなくていい!」
「あは、セックスセックス!!」
「シスターがどうしてもって言うなら、断る理由もない」

この人たち実の姉と何しようとしてんのきんっもちわる!!チョロ松が彼らの言動ひとつひとつをそれはそれは丁寧に突っ込んで行く。こいつ本当に苦労もんだな。同情するわ。

「あ〜〜…でもあいつはどうかな」
「あいつ…?」
「一松だよ一松。やたらまゆねーちゃんと関わるの嫌がってたよな」
「お、お、おそ松兄さん…!それいま言う必要ないでしょ…!」

チョロ松が慌てたようにおそ松の口をふさぐ。十四松とカラ松も少し気まずそうに視線を斜め下にやる。一松が私と関わるのを嫌がってた…?私がいったい一松に何をしていたというのだろうか。まさかレイp(自主規制)いやいやなわけないそんなわけなーい。私にそんな勇気あるはずがなーい。それにそんなことする姉が身も心も寒いOLなんて言うわけがなーい。

「あ、はは。私、一松になんかしちゃってた?」

本当に何も心当たりがない故、この張り詰めた空気を割り切って聞かねば、分からないのだ。行き場のない手を頭の後ろに当てて、ははは、と笑ってみせる。しかし誰も何も言おうとしない。先程まであんなにも騒がしかったこの部屋が一気にしんっと静まり返る。おいおいおいガチかよ。マジモンかよ。

「こんなこと…わざわざ言いたくはないんだけど、」

チョロ松がおずおずと口を開き、ちらりと私に視線を向けた。ごくり、と生唾を飲み込む。緊張感が部屋を駆け抜ける。

「姉さん、一松への愛情表現だけ異常だったんだ。一松推しだったんだ。キモいくらい。
「今キモいっつった?」

拍子抜けである。何だそんなことかと、安堵に胸をほっと撫で下ろす。愛情表現って…可愛い弟にはそりゃあ過度な愛情表現もしてしまうでしょうよ。それをキモいだなんて失礼極まりない。

彼らの記憶にある私はどうやら一松推しだったらしい。おっかしいな箱推しなのに。ていうか兄弟に対して推しとか使っちゃうあたりもう手遅れだと感じる。

「やっばかったよな!朝起きたら一松の隣で寝てたり、猫のコスプレしてわたしも撫でてニャンとか言ったり、一松のパンツ盗んだり
「あはは、きっっもいよね!!!」
「あぁ、イタイな」
「いやカラ松兄さんも十分イタイからね」

散ッ々な言われようである。カラ松にイタイって言われたのが地味に一番辛い。過去の悪行を晒されて、開いた口が塞がらない。いや…わたし…パンツに関しては犯罪だからな。

「そ、そ、そうだったんだね。でもその記憶もないし、これからは気をつけよ〜っと。なんてね、あは、あはははは」

まいったまいった、とでも言うようにケラケラ笑い飛ばしてみる。記憶喪失とは実に都合よく使えるものだ。他のみんなも、確かにその部分の記憶もないんだし問題ないかと納得したようである。

「って、噂をすれば何とやら。おかえり〜、一松」
「……あぁ、ただいま゛ッッ!?!!?

おそ松がひらりと手を振った先には、猫を抱きかかえながらのそのそと歩いてきた一松。彼が帰りの挨拶をしたと同時にばちっと目が合ってしまった。いつもの半開きの目はカッと見開かれ、怒涛の勢いで後退した。彼に抱きかかえられていた猫もその様子に驚き、彼の腕から逃げて行ってしまった。

「あ。えと。おかえり…一松」
「てめぇどこからわいて出てきやがった…そこから一歩でも動いてみやがれ命はねぇぞ」
「予想以上に嫌われてる」

おかえりと言っただけでこれほど警戒心を抱かれることがあるだろうか。顔の筋肉が強張る。一松から放たれる殺気は目に見えて分かるほどであった。

「…いつもなら、俺が家に入ってきた瞬間に飛びついてくるから…。いないのかと思った」
「ごめんなさいごめんなさい怒らないでやめて命だけはご勘弁を南無阿弥陀アーメン」
「落ち着いてまゆ姉さん今一松普通のことしか言ってないから!…一松、大丈夫だよ。姉さんちょっとした記憶喪失になっちゃって、前みたいなお前に対するキモい愛情はなくなったみたいだから。もうキモい姉さんじゃないから」
「今キモいっつった?(二回目)」

一松はチョロ松の話を聞いて、信じがたい、とでも言いたげな目をしてこちらを見ていた。精一杯の笑顔を浮かべて手を振ってみると、一松がびくり、と身体を揺らす。彼の目には、今の私の姿など胡散臭くしか映っていないのだろうか怪訝そうな表情。奇行に走ってこないあたり、本当だと信じてくれたのだろうか、部屋の隅に腰を下ろした。それが何だか嬉しくて、顔がほころんでしまう。他のみんなも安堵のため息をついた。

折角心を許してくれた(と勝手に思ってる)一松と仲良くなりたい。あわよくばお姉ちゃんなんて呼ばれたい。そんな気持ちから、少しだけ一松に近寄ってみた。


「あ、あのいちま「それ以上近寄ったら、殺すから」辛辣っ」

半径3メートル以内に近づいたらね、本当だからね、と後付けされた。


つづく。





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