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□チェリーチェリー
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僕に彼女が出来て半年になる。まゆはマジで可愛い。冗談じゃない。見てるだけでご飯が進む。半年間、大事に大事にし続けてきた。が、そろそろ僕たちはその、あの、してもいいと思う。え?何を?ばばばばば、ばかじゃねーの!なに聞いてんだよ!決まってんだろ!せ、せせせ、せっ…言わせんな!!!
でもまゆが可愛すぎて、見てるだけで僕は十分で、いや、その、抱けるなら一刻も早く抱きたいけど、まゆがどう思ってるか分からなくてイマイチタイミングを掴むことができない。それに僕、童貞だし。勿論こういうのは男がリードしなきゃいけないのはわかってる。けど、けどさあ!!
久々の家デートということでチョロ松はこのように一人悶々と考えていた。一方まゆはというと、ゴロゴロと寝転びながら漫画を読んだり、お菓子を食べたりと気ままに楽しんでいる。
「たのしーね、ちょろまつー」
にへら、とまゆが笑って見せればチョロ松はそれだけで顔を赤らめる。ぁぁ、今日も一歩進むのは無理そうだなあと、考えながら、まゆの頭を優しく撫でた。
「ねー、チョロ松」
「ん?」
「だーいすき」
ノックアウトである。童貞に大好きという単語は凶器でしかない。自分の感情をすぐに表に出すタイプであるまゆの素直さもまた、彼にとって大きな魅力なわけで。
「あ、あ、ありがとう…。俺もまゆのこと「だからおっぱい揉んでよ」
「え?なんて?」
まったくもって急展開である。
まゆによれば、好きな人に胸を揉んで貰えば大きくなるというのを友人に教わり、それは貧乳をコンプレックスとしているまゆにとって、有益な情報でしかなかったという。あまりにも短絡的すぎて、チョロ松はおもわず溜め息をついた。
「あのねぇ、そんなんで本当に大きくなると思ってるの?」
「え?なんで?ならないの?知ってるの?チェリー松なのに?」
「まゆさん?」
無論、その情報が嘘か否かをチョロ松が知るはずがなかったが、何となく信憑性が低いことくらいは分かっていた。しかし、これは彼にとって大きなチャンスなのである。まゆと一歩進む、大チャンスなのだ。しかし、あまりにもムードがない。なさすぎる。これはチョロ松的にも納得がいかないようで。
「別に僕は大きいのが好きなわけじゃないし、まゆはそのままでいいんだよ」
「ちーがーう!チョロ松(がデカパイが好きかどうか)なんてどーでもいいの!!!」
「泣いていい!?泣くよ!?」
「わたしはおっぱいおっきくしたいのー!!!」
埒があかない。はあ、ともう一度大きく溜息をつく。まゆが本当に純粋に胸を大きくしたいだけなら、下心満載なチョロ松はなんだかまゆに申し訳なくて、快く承諾が出来ないのである。彼女を大事にしたい彼なりの考え。
「…やだよ」
「いーじゃん!減るもんじゃないし!」
「やだよ!」
「どーして!」
どうして察してくれないかなあ!多少の苛立ちと恥ずかしさがチョロ松を悩ませる。ああもう童貞はこんな時でも童貞なんだな。潔く襲ってしまえばいいじゃないか。何でできないんだ僕には。童貞か、童貞だからいけないんだな。理性が持たない、ということを口に出して説明してやることすら恥ずかしくて出来ない。
「チョロ松はわたしのおっぱい、触りたくないんだね」
しゅん、という文字が見えるかのように落ち込むまゆを見てハッとする。勘違いを、させてしまった。僕がちゃんとしないから!!!違うんだ違うんだ!触りたいに決まってるだろおっぱいだぞ童貞の夢!長年の夢!でもそれとこれとは違うだろうが!ってそんなことを言っている場合ではなくて、早くこの誤解を解かねば。
チョロ松はまゆを抱き寄せて、赤面した顔を見られぬよう強く抱きしめた。これが彼の精一杯の愛情表現。
「止まらなくなるかもしれないんだぞ!つーか無理!止めるとか無理!だって彼女のむ、む、むむむねを!触ってそれだけで止められるわけがない!」
言った。この際引かれようが何だろうが構わない。それくらいにチョロ松は必死であった。何も言わずに彼女を傷つけてしまうよりかはいいという彼なりの判断である。
「ね、だからさまゆ」
「…いいじゃん、止まんなくたって」
間。彼女の胸を大きくしたいから、という理由は口実にしか過ぎなかったことを理解するのには少々の時間を要した。理解した頃には、まゆはチョロ松の腕から逃れていて、彼の上に跨り服のボタンに手をかけていた。
「女の子に恥、かかせないでよ」
だからチェリー松なんて呼ばれちゃうんだよ、なんてからかう彼女に、もう反抗する余裕もなかった。
チェリーチェリー
( 童貞でよかった、と思ってしまった )
fin.