シャーロック・ホームズ

□"彼女"の脳内記C
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"彼女"の脳内記C

今日のある授業のとき、少々よくないというか、嫌なことがあった。
まだホームズさんにも教えていないが、授業中にこっそりある生徒に、授業後ある場所に来てほしいと言われた。
嫌だがそれを拒んでしまうと、それ以上のことが待ち受けているため、行くほかなかった。

その授業後、私はホームズさんに話しかけた。



「どうしたんだい?ミレイ」
「あの、ホームズさん……先に寮に戻っていてください。私用があって……」
「用、ね……。まあ、構わない。早めに戻るんだよ」
「はい」



決してホームズさんは快く受け入れてはくれなかった。
当然だろう、詳しい事情も聞かずに、以前まであんなことがあった私を一人で行かせるのだから。

心の中で何度も謝りながら、指定された場所へ足早に向かった。



「ありがとう、シュヴェルツさん。来てくれて」
「え、ええ……」
「あの時から……魅力的だったんです。囚われていた姿も、美しかったんです」



私を呼んだのは、違う寮の男子生徒。

今の言葉を皮切りに、次々と私についての魅力を語り出した。
もし、今までの私ならば素直に喜ぶだろう。
しかし、どれほど褒め言葉を聞いてもうんざりとしてばかりだ。

もはや、いつから私は変わったのだろうと、彼の話も聞かず思い巡らせていた。
そして彼は、ですから、と今まで言ってきたことを整理して最後に言い放った。



「貴方のことが……好きです!」
「あ……えっと、その……」



どうしよう。何も考えていなかった。
答えを出しておくようにと、言われたのに……。

情けないことに、どうしようどうしようと、黙って考え込んだ。
早く答えを出さないとと、焦って考えるたび答えは遠のいていく。



「……言ったよね?この前」
「っ……!」



すると、男子生徒の態度が急変した。
かしこまった言葉が抜け、私に高圧的な視線を浴びせる。

怖い。怖いが、この状況を招いたのは私にも非がある。



「答えが出ないか?……なら、」
「や、やめて!」
「すまない。うちのが迷惑をかけたね」
「なんだ、お前……」



男子生徒が、手を上げた。叩かれる―!とパニックに陥りそうになったときだった。

目の前に人の気配を感じた。
少しの間現状を理解することに遅れたが、私の前に人が立っており、それが大切な人だとわかった。



「ほ、ホームズさん……!」
「どんな約束事か何かがあったかは知らないけど、君にミレイを渡すことはできない」
「な、なぜだ?お前にその権利は無いだろう!」
「僕にはね。彼女を守る義務があるんだ。それは強迫観念ではなく……僕自身の意思で、己に義務を課している」
「!!」



私から見たらまだ怖い男子生徒に向かって、ホームズさんは堂々とした構えだ。
こんなにホームズさんは面と向かって対峙している。
私も勇気を持たなければ。



「……ごめんなさい。貴方の願いを、叶えることはできません」
「……チッ」



男子生徒の舌打ちが聞こえ、思わずホームズさんの服の裾を掴んだ。
ばつの悪そうな顔をして去って行くのを見て、やっと落ち着くことができた。



「ミレイ?」
「!」
「221Bに戻ろうか」
「……はい」



ホームズさんには、細かいことを伝えることもせず、更には私を守ってくれた。
申し訳ない思いが募ったものの、ホームズさんはそれでも微笑みかけてくれた。

いつも私は、貴方の微笑みに救われているな。
 

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