シャーロック・ホームズ

□"彼女"の脳内記@
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"彼女"の脳内記@

私が朝起きてロフトから降りてきた時はまだ、ホームズさんは眠っていた。
まだ朝も早いため、起こさないようにそっと窓辺に寄りかかり、ビートン校の庭を眺める。

どれほどの間そうしていたかはわからないが、朝日が部屋を照明のように照らす頃、ホームズさんは目覚めた。



「おはよう。朝は早いんだね」
「その……閉じ込められたときの名残です」
「!それは、モリア―ティ教頭が?」
「朝起きたら……というより、身の回りの世話を任されていた、ので……モリア―ティ教頭が起きる前に起きておくのが、決まりというか」



ホームズさんは、モリア―ティ教頭のことや、関係することを見聞きすると表情が変わる。
それは、動物の本能に眠っている敵対心、のようにも思えた。

すると彼は、見た感じではわからないように重たい空気に”ここ”を変えて、話し出した。



「……まだこれからなんだ。僕らはなるべく、君を解放してやりたい」
「そこまで、考えてもらえるなんて……申し訳ありません」
「当然だよ。それよりも、君はひとまずここで暮らすんだ。せめてここだけでも疲れないような場所であればいい」
「……よろしくお願いします、ホームズさん」
「……ああ。よろしく」



私は生きていて一番とも思えるほど、喜びや感謝などの心地よい気分を感じた。
だからホームズさんのところに近づいて、深々とおじぎをした。

彼は驚いていたけれど、優しい微笑みを返してくれた。



「あ。……名前、教えていませんでしたね」
「ああ……君のことを探求することに打ち込んでいて、忘れてしまっていた。でも君の名前はわかるよ」
「えっ……!?」
「君はミレイ・シュヴェルツ。だろう?」
「そ、その通りです……!あの、どうして……?」



なぜホームズさんは、私の名前を知っているのだろう……?
単純にそれだけが気になって聞いてみると、ソファの前にある机をホームズさんが見た。

そこには私に見覚えのある物があった。



「そこの机にある手紙。宛てる人物は遠くにいるんだろう。君の住所とフルネームが書かれてある」
「!素晴らしい推理ですね……!そうです、母親に出すんです。事情があって国外におりますから」
「こんなものじゃ推理とは言えないけどね」



そう言って謙虚にホームズさんは笑うが、案外まんざらでもなさそうに見えた。

私は昨日221Bの誰よりも早く寝てしまったため、その分誰よりも早く目覚めた。
まだ決して明るくはない早朝に、今はイギリスの外にいる母親に手紙を書いていたのだ。
”私は元気だ”と、伝えるために。



「あの……私は勝手に、ホームズさんとお呼びしていますが……私のことは好きにお呼びください!」
「そうだね。好きにさせてもらうよ」



この時はどうとも呼んでくれなかったが、既に決めているのだろうと察した。
それよりも、ホームズさんの微笑には何か、ただ笑顔が人を元気にするだけでは言いくるめられない、魔法のような力がある。

私はせっかくだから、ずっとホームズさんについてあることを言ってみた。



「その、以前こっそり……えーと、新聞らしきものを見たのです」
「……壁新聞だね?」
「ええ!それで……非常に心を打たれました。ホームズさんは、すごいことをなさっています!」
「ふ、そこまで称賛されると逆に反応が難しいね。ちなみにうちのワトソンが書いているんだよ」
「まあ……!素晴らしいコンビですね!」



ホームズさんがビートン校で起こる不可解な事件を解決し、その功績をワトソンさんが文に起こす。
なんと素敵で、ロマンに溢れる共同作業だろう!

ふと、私も二人の輪の中に入れやしないかと、夢を見るかのように思った。
 

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