シャーロック・ホームズ

□甘いだけが愛じゃない
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今日のビートン校は、なんというか皆うかうかしているように見える。
それもそうだろう、今日はバレンタインなのだから。

チョコレートを贈るという習慣は、イギリスから広まったものであるから、特にうかうかして見える。
しかし、そのうかうかした群衆のうちに私もいたのだ。





「あの……ハドソン夫人。ホームズって、甘いもの苦手そうですよね……?」
「ん?あ、もしかして……ミレイちゃん、シャーロックに何かあげるの〜?」
「っ!……そう、です。でも、お菓子とか基本ダメかなぁと思って……」





どうしても、何かホームズに作ってあげたくて、悩んだ挙句ハドソン夫人の元へ尋ねに行った。
お菓子以外と言っても、逆に選択肢が多くなってしまって、更に悩んでしまった。

だけど、ハドソン夫人は良い方法を教えてくれた。





「そうねぇ。なら、ココアの粉を使えばいいんじゃないかしら?」
「ココアの粉……?」
「ええ!たくさんある中で、体に良いものがあるんだけど、それはあまり甘くないの。それを混ぜたら良いと思う!」
「!そっか……それで作ってみます!あの、恥ずかしながら……作り方も教えてください」
「ふふ、良いわよ!」





そして、ハドソン夫人に紹介された通りココアの粉をクッキーの生地に混ぜることにした。
クッキーなんて、お菓子じゃ初歩的なものかもしれないが、これでもかなり苦労した。

念のため、一度試食してみたが、甘党の私には苦くてたまらなかった。
もちろん砂糖は一切入ってないから、ホームズにはうってつけなのだろうけど。

それをシンプルな紙で包んで、ラッピングした。





「シャーロック、喜んでくれるといいわね!」
「はい!教えてくださって、ありがとうございました」





ハドソン夫人に礼を言って、半分不安、半分楽しみな気持ちを抱えて、221Bに戻った。

221Bに戻ると、ホームズはピロピロ笛を吹いていた。
何か考え事でもしているのだろうか。





「えっと……シャーロック?少しだけ良いかな……?」
「なんだい?」




恐る恐る声を掛ければ、今までどこか遠くを見つめた、またはそもそも何も見つめていなかったホームズの目が、一瞬で私のほうに向けられた。
なぜこうも、一緒にいるのに、目を見ることにだけは慣れないのだろう。

それにより、少し気持ちが焦れてきたのだが、ここは勢い!とクッキーを差し出した。





「シャーロックっ……!あの、これ、バレンタインのプレゼント……。受け取って!」
「……バレンタイン」
「あのね、ハドソン夫人に教えてもらって……甘くない、ココアの粉を使ってクッキーを焼いたの。……食べれるかな……?」
「ありがとう、ミレイが作ってくれたならいただくよ」





ホームズは微笑で受け取ってくれて、無駄のない動きでラッピングを解き、すぐにクッキーを口にしてくれた。
そういえば、あまりにも緊張してずっと立っていたものだから、ゆっくりとソファに座り込んだ。





「ど、どう……?」
「……うん!くどくなくて、美味しいよ」
「ほんと……!?よかった、美味しいって言ってもらえて……」
「ミレイは、ちょっと心配性だね」
「えっ、どうして?」
「僕はミレイが作ったものなら、どんなものでも食べるさ。好きな人に作ってもらうと……違うものだね」





あれ、おかしい。
美味しいって言ってもらえて、不安は解かれたはずなのに、とってもドキドキする。

ホームズはその後全部クッキーを食べ終え、それをずっと眺めていた私の頭を撫でてくれた。

一晩立てば、このドキドキは収まるのだろうけど、今日のことを思い出すたびにドキドキするのだろう。



〜終〜
 

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