シャーロック・ホームズ

□赤い果実と少女
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※ホームズ視点



今朝、ミレイがハドソン夫人の元から、何か嬉しいことがあったのかスキップしながら、221Bに戻ってきた。
しかし推理する必要もなく一目瞭然で、赤く成熟した林檎を3つ抱えていたのだ。
その林檎の紅さは、ミレイが白雪姫のような肌で頬がピンク色なため、いっそう際立っていた。





「ねえ、シャーロックはこの林檎欲しい?」
「……君が食べたいのなら、全部あげるよ」
「っ!……ありがとう」





さっきよりも頬が赤く染まった。

ミレイの尋ね方は、どう考えても「全部独り占めしたいんだけど、良い?」ということに他ならないと考えた。
そもそも特に食べたいとも思わなかったが。

それに、こんな些細なことで幸せそうな顔を見せてくれるなら、寧ろ全部食べてと勧めるだろう。





「ん……。わあ!この林檎、蜜が多いわね!」





そして豪快に丸々一個を齧ると、片方の頬に手を当て、またも幸せそうに笑った。
口端から垂れる林檎の蜜に気づいていないため、よほど美味しかったのだろう。

ここでちょっといたずらをしようと考え、はしたなく垂れる蜜を指摘せずに、自分も気づいていないフリをした。
林檎の蜜は僕の企てに協力しているかのように、ミレイが齧るごとに溢れ出させた。





「わわ……どうしよう……」
「…………」





どうやら蜜を吹く布類が無いようで、口辺りを指で拭い、その指を舌で舐める―という行為を繰り返していた。

不覚にも、その行動に見惚れていた己がいた。
思春期という敏感な頃は伊達ではなく、対象を愛しいと思うほど、
このどうしようもないざわめきはひどく迫り来るのだ。

僕はいつの間に、女性のなんてことない仕草に虜になるようになったのだろうか。
この感情を信じないことを主張するように、僕は彼女にハンカチを差し出した。





「埒があかないだろう、これで拭いたらいい」
「あ、ありがとう!シャーロック。これ、きっと良い品種の林檎なのね」
「さあね」





そんなはずはない。
あの"感情"に溺れてしまったら、一体どうなるというのだろう。



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