シャーロック・ホームズ

□命令に逆らえず
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「んっ……!」
「……可愛いね、ミレイは」





背中には、簡単な作りをしているものの人間の体重を支えるベンチ、そして真上には恍惚としたホームズ。

彼に何があったのかは知る由もないが、突然押し倒されて唇を奪われた。
恋人関係にあるものの、あまり甘ったるいスキンシップはしてこなかった。
そのため、多少混乱している。





「ねえ、誰か来たらどうするの……!」
「またそれか。僕としては、このハラハラ感が好きなんだけどね」
「し、知らないわよ……!」





まず、今いるところを教えよう。

そもそも室内ですらなく、寮が外側から見える庭にいるのだ。
最初は散歩していたものの、このベンチの近くに差し掛かった途端、押し倒されたわけだ。

まだ221Bならいい。
しかしここは屋外なのだ、誰かに見られる可能性がある。





「じゃあ、舌出して」
「えっ!?待って、早すぎ……」
「僕が舌を出してって言ってるんだ。……ほら」





私の前では珍しく、命令口調で言われる。
しかし厳しそうな言葉のくせに、表情は相変わらず悦に浸っている。

どうしても私に先に舌を出してほしいらしく、彼は全く出そうとする様子がない。
しかし命令された私には、それを考えて抵抗する暇はない。





「……ん……!」
「よし……いい子だ」





たとえ舌の先っちょだけでも、出すと何も言葉を発することができない。
だから、こんな喘いでいるようなもがくような声しか出せないのである。

それでもホームズの心に届いたようで、なぜか頭を撫でられた。
……犬のようだ、私。





「んんっ!?……う、っあ……」





それは唐突で、ちょこっとしか舌を出していないのに、舌裏からホームズに舐め取られる。
そして、私の舌を追いかけるような舌の動きで、言葉にできぬ気持ちよさから逃げようとしている私が、己の舌を止めれば彼はそれを吸った。

なんて、甘いキスだろう。
何が彼の背中を押したのか、砂糖を盛大にこぼしたように甘さが増えていく。





「んっ、あ、ふあっ……!」
「……ふっ、ちょっと急すぎたかな」





ホームズのほうから離れれば、お互いの唇の間に唾液の糸ができる。
彼は器用にそれすらも舐め取った。





「……もうっ、シャーロック……」
「でも、案外受け入れてくれたのには驚きだ」
「……好きだもん、シャーロックのこと」
「それは大変嬉しい」





また彼は、楽しそうに笑う。
さっきはあんな大人な口づけを交わしていたのに、まるで気になっていた女の子がやっと振り向いてくれた、思春期男子のようだ。

……しかし、学園一の名探偵も思春期の男子なのだ。
なんだか、また新たな一面を見つけた気分だ。



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