シャーロック・ホームズ

□貴重な一面
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朝目を覚ますと、実験をまた徹夜でしていたのか、ホームズはソファで眠っていた。
まあ徹夜などよくあることなのだが、どうやら今日はいつも通りとは行かないようだ。





「……シャーロック?こっち向いて」
「なに……?」





ホームズにこちらを向くよう促すと、私は表には出さなかったもののハッと驚いた。

なんと彼の顔がいつもの3倍くらい赤みを帯びていたのだ。
やはり嫌な予感がよぎる。





「もしかしてシャーロック……風邪をひいているんじゃない……?」
「風邪?そんなわ……け、あ……」
「シャーロック……!」





ホームズの口だけの否定など敵うはずもなく、体は正直で私のほうに倒れこんだ。
いつもより息が荒く、長く触れていればやけどをしてしまいそうなくらい熱い。





「やっぱり、アドラー先生かな……」
「……ミレイ……」
「なに、シャーロック……うわっ!」





なかなか風邪をひかないので、突然のことに私は戸惑っていた。
何か出来ることはないかと考えても、知識も何もないため私がアドラー先生を呼びに行くしかないと思った。

しかしそれを遮るように、倒れて私を支えにしていたホームズがソファに私を倒れさせた。
というより、ほぼ力任せであった。





「っ、ちょっと、シャーロック……!ダメよ、アドラー先生を呼ばなきゃ……!」
「……行か、ないで……」
「行かないでって……」





いつもならば、行くなと命令口調で言うはずなのだ。
しかし、とても優しい口調だし弱弱しい。

それに風邪をひいていてもホームズは男。
年齢差がないのにも関わらず、上に乗っかられるだけでその力は私じゃ到底及ばなかった。





「…………はあ、はあ……」
「……悪化しちゃうわ……」
「ダメ、だ……。神経すらも、ズタズタなんだ…………。ミレイが、いなかったら……僕は…………」





ホームズは声を絞り出すようにして、私を全身全霊で引き止めようとする。
しかし、神経がズタズタとは……何をしたのだろうか。

訳を訊こうにも、本人がこうでは……。
すると、221Bの扉が開かれた。





「あ……ホームズ!」
「!ワトソン!」





いいところにワトソンがやって来た。
もしかしたら、ホームズのこの衰弱ぶりの訳が分かるかもしれない。

―真相はこうだ。どうやらホームズはある事件を解決しようとしていた。
しかし突き詰めるほど相当危険な事件であることがわかり、それ故彼の興味と集中力が増した。
それが高じてしまい、なんと捜査と推理を徹夜不眠で数日も続けてきたのだという!

なぜ私たちに知らせなかったかというと、至極単純で危険な目に合わせたくなかった、だそうだ。
ワトソンですらも、その理由は聞いていたものの関わってはいないのだ。





「徹夜を数日もって……」
「どうやら、寝たフリをして僕らが寝たのを確認して、出かけていたみたいだよ」
「……危険だからって、伝えもしないなんて……」





ワトソンから聞いた後、アドラー先生が部屋を訪れてくれた。
どうやらワトソンは呼びに行っていたようだ。

先生からは絶対安静と言われ、私とワトソン交代で看ることにした。
そして今夜は、ワトソンは先に寝て私は起き続けていた。





「……シャーロック?」
「…………」
「……一人で無理をするのは、私悲しいわ……」
「……だって、ミレイがケガをしたかもしれない……。風邪よりひどい事態になったかも、しれない」





今朝よりは少し回復していたものの、まだ虚ろだ。
しかし、こんなに私を心配してくれていたなんて。
私のことが大好きなんだと、この身で実感することが出来た。





「……ありがとう、心配してくれて。……大好き」





すると、ホームズは優しく私の手を握ったのだった。



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