シャーロック・ホームズ

□思わず零れる言葉
1ページ/3ページ

今日もまた、シャーロック・ホームズの元へ依頼人が訪れている。

今回の依頼人は、メアリー・モースタンという小柄で可愛い女の子だ。
ただ、気は強いほうだと思う。

事件の内容は―登場人物の名は省く―、どうやらメアリーのお兄さんが何者かに殴られたらしい。
ただ殴られただけではなく、全治2週間というひどいあり様だ。





「真面目な兄がどうしてこんな目に遭うのか……私には分かりません」





俯きながら言うメアリーの声からは、苦痛と混乱が感じ取れた。
ああ、どうにかして助けてやりたい。

その後、ホームズがメアリーに質問攻めを始めた。
見慣れてる私とワトソンにはいつも通りのことだったが、どうやらメアリーには何か癪に障ったようだ。
メアリーはホームズに嫌な感じと言うが、もちろんのこと彼は聞く耳すら持っていない。





「とりあえず、そのアブドラの話を聞いてみるか」
「メアリー・モースタンさん、私たちにならお力になれると思うから……」
「……よろしくお願いします」





私が説得した部分もあるかもしれないが、メアリーが正式に依頼をしたことになったので、これで調査が出来そうだ。

すぐ調査をするかと思ったら、ホームズはメアリーが座るソファの背もたれに手をかけ、にやりと笑った。
どうしたかと思ったら、すぐに分かった。





「ワトソン君は君にゾッコンみたいだ」
「!な、なな何を言ってるんだホームズ!!」
「ふふっ、ワトソンも恋の季節かしらね」
「さあ。僕には知り得ないことだね」





そう言いながらもお互いに笑い合い、ワトソンのほうは顔をリンゴのように赤くしていた。
そんなワトソンを後にして、メアリーと共に事件現場へ向かうことにしたのだ。










***










場所は、アーチャー寮315A。
部屋はまるで、ついさっき事件が起こったかのように何も動かされた形跡がないのだ。

どうやら、メアリーが調査をすると思い、部屋にいるアブドラくんに現場保存を頼んでくれていたようだ。
その気遣いに、ワトソンのゾッコンぶりは増していた。
そんなことは気にせず、ホームズは何か呟きながら調査をしていた。

私は推理力はないので、現場を荒らさぬようじっとして見守るだけだ。





「なかなか、しっかりした女性だとは思わないか?」
「メアリーさんね。現場をそのままにしてくれるなんて」
「興味なし。僕が興味あるのはミレイだけだ」
「!?」





ワトソンの浮かれきった言葉を一刀両断してから、誰にも聞こえないくらい小さく呟いたのが、私には聞こえた。
メアリーもアブドラも、全く気にしている様子はない。

……もし聞いていたら、とんでもない発言だったろう―。

ホームズが現場にあったものをメアリーさんに尋ねたり、アブドラにも尋ねている間、私は発熱したように熱い頬にずっと触れていた。
これじゃまるで、今のワトソンのようだ。
すると、部屋にホームズの声が響き渡った。





「ありえないことを全部取り除いてしまえば、残ったことが真実なんだ」
「!」
「どういうことですか?」
「ここにホコリが積もっている。誰かがあそこを開けた証拠だ」





するとホームズは、とんでもないことをし始めた。
部屋の窓によじ登り、なんと外へ出てしまったのだ!

無意識に体が動いていて、ホームズの後を追っていた。
それに気づいたホームズは、珍しく驚く。





「ミレイ!危ないから、そこで―」
「ホームズだって危ないよ……!行くなら私もついて行く!」
「!…………仕方ない」





ホームズはそう呟いて、私の手を取り引っ張った。
あまり反動を大きくしないようにするため、自然に彼の胸元に倒れ込む。

お互い突然顔が近くなったため、一瞬赤くなった。
だがメアリーとワトソンも登ってきたため、すぐ意識を戻した。





「ワトソン!危ない!」
「ワトソン!!」
「あっ!うわああああぁぁぁっ!!」





メアリーが登るのを手助けしようとしたのが空振って、ワトソンの体が倒れてしまう。
そしてその体重に耐え切れず、柵が壊れて地面へ落ちていくのが聞こえた。

それと同時にワトソンが落ちていってしまい、私は思わず目を瞑った。
続けて怪我人が出ないように、メアリーは近くのものに掴まっており、私はホームズに抱きしめられていた。





「大丈夫!?ワトソン!」
「だ、大丈夫……!!」





運よく直下にアーチャー寮の花壇があり、そこに落ちたため軽い怪我で済んでいたようだ。
一つ言えば、ホームズがずっと私を離さなかったことか。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ