シャーロック・ホームズ

□誰が何と言おうと、私は
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「…………」
「……」





221Bは、相変わらず人がいながら静かだ。
しかしその静かさは、ホームズの恋人である私ですら、その場から逃げたいほど異様なものだった。

そこからもう分かるかもしれないが、この静けさの犯人はホームズだ。
先ほどからピロピロ笛を吹いていながら、どうも落ち着いていない。





「何があったのかな……」





たとえ恋人と二人きりであろうと、ホームズの集中力に独り言ですら敵わない。

私が眠りこけていた最中に、既にホームズは依頼を受けており……。
起きた頃には、イライラした様子で考え事をしていた。

だが、なんですぐに気づかなかったのだろう。
きっとその事件の現場を見に行ったとき、いろいろあったのだ。ホームズに障害になるほどの、何かが。





「ねえ、シャーロック……」
「気に入らない!」
「!?」





勇気を出して聞いてみようと思えば、ピロピロ笛を口から離して、叫んでいた。
まだイライラは鎮まっていないようだが。





「あのベインズという奴……全く子供らしさが無い!」
「……ベインズ、さん?」
「……クーパー寮で生活委員をしている」





私は一度も会ったことがないのだが、ホームズがそれを察したのか、まだ苛立った様子で紹介してくれた。

しかしまあ、ベインズという人がどういう性格なのかもちろん分かるはずもないのだが、
ただ一つ"生活委員"ということだけは、ホームズの障害に成り得そうな部類だ。





「そうなんだ……。……その人が原因?」
「……ふん、まぁね。さっきも言ったけど子供らしさが無いんだ」
「んー、それを詳しく言うと?」
「…………推理力がある」





ホームズがやっとのやっとで絞り出した言葉で、納得がいった。
推理力があるということは、その力が試される場があって―。

その場はきっと、ホームズが調べている事件だろう。
何があったのか知らないが、捜査しているところに現れて、きっとホームズがうなるほどの推理をしたんだろう。





「そういうこと……それで、悔しいのね?」
「……ちなみに飴を舐めてる」
「…………」




それは、どうだろう。

さっきよりは苛立ちが落ち着いて、テンポは悪いものの私と会話してくれるようになった。
さて、少しばかりなだめてあげよう。





「シャーロック」
「……なに」
「私はね、シャーロックが好きなんだよ!貴方ただ一人!」
「!……突然、何を」
「別に私、推理力だけに惚れたわけじゃないのよ。知ってるでしょ?たとえそのベインズが一枚上手だったからって、根源は貴方を超えたわけじゃない。
それは私が保証する!!」





珍しく、私の前でひどく動揺するホームズ。
ベインズのこととは少しずれた告白に、そりゃあ動揺するだろう。
それでも、私は想いを伝える。





「シャーロックの推理は、シャーロックのものだけ。私はそんな貴方が大好き」
「……」
「ね、もう事件の謎、解けたんでしょ?」
「……全く。心配させたねミレイ。ついて来てくれるか、事件の謎を解きに」
「ええ、もちろん」





ありったけの想いを伝えて、怒りを完全に鎮めることができた。
でもこの想いは鎮めるだけではない。

目の前にホームズの手が差し伸べられ、その手を取って221Bを出た。
二人で、事件の謎を解きに。



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