シャーロック・ホームズ

□宝石のような美人
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授業中眩暈がして、ワトソンのほうに倒れてから私にとって、時間は経っていなかった。
意識を失うのもすぐだったし、眠ってはいたんだろうけど夢など見なかったから、一瞬といえば一瞬だった。

あの時は頭痛とか吐き気はあるにはあったけど、もう眩暈がいちばんひどく倒れたいほどだった。

今はもう、それは一切無くなったし、気持ちも元気だ。





「…………ちゃん」
「……っ」
「シュヴェルツちゃん、元気?」
「……!あ、せ、先生」





女性の声が聞こえ、意識がありながら目を閉じていたのを、目を開けて声のほうを見た。
そこには、ピンク色の髪の同性でも思うほど綺麗な先生がいた。

保健室に来るのは初めてだが、この先生は知っている。
アイリーン・アドラー先生だ。





「ミレイ・シュヴェルツちゃん、ね」
「……はい」
「授業中に倒れたらしいわね。今はどう?」
「あ、もう元気です。楽にも、なりました」
「それはよかった。シュヴェルツちゃん、どうやら貧血みたいね」





貧血、か。
重たい病気とかじゃないことだけ、私は安心した。





「あの先生、ここまでは誰が……?」
「ん?ああ、ホームズ君よ」
「!ほ、ホームズが……?」
「ええ。貴方を横抱きにしてね、本当に大切そうにしてたわ」





ホームズ、授業中はいつも通り寝ていたはずだ。
ワトソンじゃなくて、ホームズが運んでくれたのか。

それより、横抱きしてくれたことに一気に恥ずかしさが増した。





「見てるだけで分かったの。ホームズ君、シュヴェルツちゃんのこと大好きなんだなぁって」
「っ……!!……というか、先生、もしかして私たちのこと……」
「ふふ〜……有名よ?お二人の関係は」
「うっ、そ、そうだったんですか……」





実は、ホームズがアドラー先生のことを気に入っているのは知っていた。
もちろん、それが"好き"というより"尊敬"だということも。
そのことは、アドラー先生がホームズを名前で呼んでいることからも分かった。

なんだか急にアドラー先生を見られなくなって、目をそらすと時計が目に入った。
もう、外出禁止の時間帯だった。





「もうこんな時間……!!」
「ああ、ずっと寝てたのよ。それに……ホームズ君、ついさっきまでずっと見ててくれたのよ」
「えっ、数時間も……!?」
「だから言ったでしょ。大好きなんだなぁって。もう外出禁止になるから、そろそろ帰りなさい、ちゃんと彼女も帰すからってね」





ホームズ自身はいないのに、顔がかあっと熱くなる。
一気にお湯に浸かったように。

それを見たのか、アドラー先生はくすくすと笑っている。





「そういえばもう、元気なのよね?もう戻る?」
「あ、そうします。相当心配かけたでしょうし……」
「そうしなさい。一人で大丈夫?」
「はい!その……ありがとう、ございました」
「ふふ、気を付けてね。あ、先生たち全員に言ってあるから大丈夫よ」





私は頷いて、ベッドから勢いよく降りた。
こんなことをしても元気なのだから、もう大丈夫だろう。

さあ早く、ホームズのところへ戻らなくては。
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