シャーロック・ホームズ

□違う君の景色
1ページ/2ページ

「ねえ、ホームズ!起きて!」
「ん…………」





今は文学の授業後。
案の定、ホームズは私の隣で眠りこけていた。

いつものことなのだが、彼は興味のない授業は眠っている。
特に悪いのが文学、哲学、天文学らしい。

その例の文学の時間後という訳だ。





「もう!私一人じゃ運べないし……誰か来たらどうするの……」
「いいじゃないか、隠れればいいだろう」
「っ!?お、驚かさないで……」
「もう半分起きてたさ。いいね、二人きりの教室って」





気づけばホームズは起きていて、この広い教室内にホームズと私だけという感覚が、彼の言葉により急に強く感じる。
早く部屋に戻るよりも、その羞恥心にどうにも出来なくなっていた。





「いい、って……。もし次の人たちが来たら……!」
「さっき言っただろう?隠れればいいって。僕になら、そのままどうやって教室を出ればいいか分かるけど」
「うう……」





ニヤニヤして、机に寝そべったまま顔を横にして、私を見上げるホームズ。
正直、カッコいいと思ってしまった。
全く恋の病は何より恐ろしい。

するとホームズの挑発に乗るように、教室に一つの声が聞こえた。





「やばっ、忘れ物〜」
「!?」
「ほらミレイ、何があっても不思議じゃない。おいで」
「ちょ、わ、きゃっ……!」





隠れるのを楽しんでいるホームズに腕を引かれ、予想外のことにバランスを保てなくなる。
そのままホームズの手に任せたら……。





「ミレイ……今日は積極的だね」
「ち、違う……!貴方が急に……!!」





ホームズは支えてくれたものの、彼の背中が床についており、私が彼に跨るような体勢になってしまった。
片手はホームズの左手に、反対の手は床についている。

しかも、ちょうど机の高さに合うように倒れているため、忘れ物を取りに来たらしい生徒には見えていなかった。





「ホームズ……」
「しっ。静かに」





この状態に文句を言おうとしたら、ホームズの人差し指が私の唇に当てられた。
片手で支えるのが辛くなって、仰向けになっている彼の胸にそっと倒れ込む。

しばらく黙っていると、心臓の音が聞こえた。とても速い。
ホームズの心臓かと思ったが、彼を見上げれば余裕たっぷりに、そして楽しそうに笑っていた。

何気にこの状況に緊張しているのだ。
いつもの近さなのに。





「……」
「……行ったかな。どうやら前の授業の生徒だったみたいだ」
「ええ……。あ、あの、もう離れていいかしら」
「ん…………ダメ」
「えっ」






もう隠れなくていいわけだし、恥ずかしいから退こうと思っても、いつの間にか腰に腕が回されていて離れられなし、
上体を起こされてまた跨る体勢になっていた。
どう考えても、ホームズに思惑がある。






「これは事故だし……なかなか見られないからね。もう少しこの景色を見ていたい」
「景色って……!」
「いずれ君からしてほしいね。とりあえず、この状態を余すところなく楽しむとするよ」
「っ……!!」





私には、彼の意思を変える力などない。
ああ、いつまでこの状態が続くのだろう……。



後書き→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ