シャーロック・ホームズ

□「彼女が少しいないだけで」
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これは、僕ジョン・H・ワトソンが書く、事件以外の唯一の日記だ。
ただその対象は変わらず、シャーロック・ホームズのこと。

僕は、同じものを見ているはずなのにそこからいくつもの事実を見出す、そんな彼がとても興味を惹かれたのだ。
だけど最近、それ以外に新たな面を見せた。

その理由は……。





「……」
「……ミレイが来ない」





ミレイ・シュヴェルツ。
このベイカー寮221Bに住む、唯一の女の子だ。

なぜホームズは、彼女が来ないと機嫌を悪くしているのか。
それを語るには、一つ知っておくことがある。

それは、ホームズとミレイが恋人関係にあることだ。
そういえば以前、こんなことを言っていたっけ。





「元々僕は恋愛に興味がない。ただミレイは、人として女性として、とても興味を惹かれる存在でね。
実験対象として最高の存在なのさ」
「でもどう見ても付き合ってるよ」
「好きとはお互い言い合ってないよ」





理不尽だが、僕が何を言っても反論されるので諦めている。

話が逸れたが、二人は恋人関係にある。
そして彼が機嫌を悪くしている理由は、実は彼は知らされていないのだ。





「あのねホームズ、君が授業中居眠りをしてる分、ミレイが補ってくれてるんだよ。だから先生に言われて、遅れてるんだ」
「……彼女に言いつけるのが悪い」
「それは結局ホームズが……」





肘掛けに頬杖をつき、手の甲に顎を乗せてもっといじけるホームズ。
それはまるで子供の駄々をこねるようだ。

しまいには、その肘掛けにもう片方の指で時計の針のように、規則的に叩き出した。
その規則的さがどうも僕に焦燥感を与える。

よく僕は、どうしてもいたたまれなくなってその場を離れることがあるのだが、
今限りはこの行動が不思議だから、日記に収めるべく机に向かっている。






「ああ……早く。帰って来てくれ……」





ホームズとは違う意味で、僕はそんなことを呟くのだった。

結局、彼女が帰ってきたのはホームズがいじけた数十分後だった。










***










耳をすまして、彼女の足音を聞く。
扉に近づいたであろうところで、一目散に扉へと駆けた。

突然僕が出てきて、案の定ミレイは驚いていた。





「ワトソン!ビックリしたわ……どうしたの?」
「あの、僕はちょっと庭に行くから……早くホームズのところへ行ってくれ!」
「ホームズ?」
「ミレイ!!」
「じゃあっ!」





背後遠くからホームズの声が聞こえ、僕はミレイを押しのけて外へ出た。

実は庭に行くというのは嘘で、その後こっそり二人を見守ることにしたのだ。
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