シャーロック・ホームズ
□理性という牙を剥く
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「シャーロック、お風呂入ってくるね」
「あぁ」
特に変哲もない……いや、毎日が面白くて奇妙だが、とりあえず普通の日。
私は部屋の同居人に声をかけてから、浴室へと向かった。
その同居人とは、あの有名なシャーロック・ホームズ。
ただ声をかけたのは、お風呂に入っていることを伝えたかっただけなのだが。
服を全て脱いで、籠に入れてからその上にバスタオルを被せる。
このタオル、侵入者が来たとき用なのは秘密だ。
「ん……?」
湯船に浸かったとき、浴室の扉越し……もっと遠くから、微かに爆発にしては大げさだが、とにかくドンという音を聞いた。
だが私は、ホームズのような観察眼も推理力も知識もないため、その音の姿が分からなかった。
だが、その答えは違うところから現れた。
「お〜い!ミレイ!見てごらんよ!!」
「ん?ワトソン……?」
私に向って叫んだのは、ジョン・H・ワトソン。
ベイカー寮221Bに、私と同じようにホームズと同居している。
声色を聞く限り、大事ではなく楽しそうなことがあったのだろうけど……。
「んー……このままで行くのは……」
「ミレイミレイ〜!花火だよ!!」
「えっ、花火!?」
お風呂上がりで、しかもあまり入ってなく裸の状態で行くのはどうかと思ったのだが、
花火という単語を聞いて、そんなことなどどうでもよくなった。
「待っててワトソン!今行くわ!!」
肩が浸かるまで張られた湯に、波を立たせるほど勢いよく立ち上がった。
引き戸をまた乱暴に開け、ピンク色のバスタオルを掴んで体に巻いてから、浴室を出た。
するとホームズはソファに座りながら、そしてワトソンは窓辺に手をつきながら外を見ていた。
夜中に物凄い音を出してしまったせいか、驚いて二人と目が合う。
二人とも……そのまま、固まっている。
「花火だって?もしかして、ロンドンで祭りが……」
「あ、あの、ミレイ……」
「…………」
「どうしたの?二人とも。ホームズなんか、俯いちゃって」
今まで窓から外を見ていたワトソンが、遠慮がちに私へ近づいて……こそこそと言った。
分かっていたが、忘れていたことだった。
「ミレイ、ほ、ほぼ半裸だよ……!?良いのかい?男二人の前で……」
「……!あ……」
「…………」
タオルを巻いたはずだったが、はしゃぎすぎてもうギリギリだった。
ワトソンは顔を真っ赤にして、外と私を交互に見ていた。
いっぽう、ホームズは……。
こちらに背を向けながら、顔を見せまいと俯いていた。