シャーロック・ホームズ

□胸に秘めるはこの上ない喜び
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場所はベーカー街221番B。
そこに住む二人の中年男性と……一人の若い女性。

三人とも何らかの椅子に座って紅茶を飲んでいた。





「ミレイ。提案があるんだけど……君もここに住んだらどうかな?」
「えっ、私が……?」





会話を始めたのは、医師のジョン・ワトソンと若い女性ミレイ・シュヴェルツ。
ミレイはまだティーカップの真ん中ほどまでしか飲んでいない紅茶を揺らして動揺する。
そしてワトソンと――もう一人の住人に視線を向けた。





「で、でも、それこそお二人が困りませんか……?一人増えてしまっては……」
「確かにそうだけど、君は淑女(レディ)だ。むさ苦しい男が増えるわけではないだろう?」
「……」
「……僕も最近仕事が忙しくなってきたし。君がいれば、物寂しいことは無くなると思う。それに……」





ワトソンはミレイに耳打ちして言った。





「ホームズも、君もお互いに一緒にいれたら嬉しいだろう?」
「!!」
「まあ、考える時間はたっぷりある。決まったらいつでも言ってくれ」





そう言ってワトソンはウインクをした。

ミレイは紅茶を飲むフリをして、もう一人の住人――シャーロック・ホームズのほうに視線を向けた。
私立探偵であるシャーロック・ホームズ。
彼女はとある事件をきっかけにホームズと出会い、気づけば家に来るまでに距離が縮まっていた。

正直言うと、ミレイはホームズのことが好きだ。だが彼がそうかはわからないままである。





「……」
「……ミレイが住みたいなら住めばいい」
「!……ホームズさん」
「僕もワトソンと同意見だ。困ることはない。後は君次第だ」





ホームズはミレイのほうを見ることなく言い切った。
それでもミレイは元の住人二人にお許しをもらえて、後は自分次第ということにとても嬉しくなった。

そこで紅茶を飲み干し、ワトソンに照れ混じりに伝えた。





「ワトソンさん。……ホームズさんも。お世話になって、いいですか?」
「もちろん!歓迎するよ」
「……退屈にはならなさそうだ」
「ありがとうございます……!」





そして、ホームズ、ワトソン、新しい住人ミレイ三人の生活が始まったのだった。



――ミレイが自分の家に荷物を取りに行った後、221Bはホームズとワトソンとの二人きりになった。





「……ホームズ。もっと喜べばいいのに」
「十分表していたと思うけどね」
「彼女に伝わっていたかどうか……。よく考えてごらんよ。ミレイだよ?」
「…………」





このままホームズが何か言葉を発することは無かったが、ワトソンにはミレイが住むことになってホームズが喜んでいるのがはっきりわかった。

ホームズは遠くを見つめたまま、両手の指を擦り合わせ甘く優しい微笑みを浮かべていたのだった。



〜終〜

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