シャーロック・ホームズ
□それは恋する乙女の如く
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私は今では学校一の名探偵、シャーロック・ホームズの傍にいつもいる。
だけど、彼の探偵的思考回路がわかったことは一度もない。
ただそれを、純粋に褒めたときのことだ。
「ねえ、シャーロック。事件じゃないんだけれど……解いてほしい謎があるの」
「!ぜひ見せてくれ」
特に校内の大きな事件でもなく、個人的な謎をホームズに持ちかけた。
紙に暗号と思われる、私から見れば不規則な並びの文字。
これが答えへの架け橋になるのだが、こればかりがどうも解けないのだ。
「たぶん、暗号だと思うの。それがわからなくて……」
「…………」
紙を渡したと同時に、顎を指で撫で始め、独特の雰囲気を醸し出した。
彼の目には、一体何がどうやって映っているのだろう。
「これはたぶん、ある"場所"を示しているんじゃないかな」
「場所?ビートン校で?」
「そうだね。心当たりがあれば行ってみるといい」
数分もしないうちに、ホームズの口から答えが滑るように出てきた。
この暗号が示した場所へと、行ってみることに決めた。
―その前に。
「ありがとう!シャーロック。実はずっと悩んでいたの。こんなすぐに解いちゃうなんて、貴方は本当に天才ね!」
「!……」
「じゃあ、早速その場所に行ってみる。ちゃんと報告を…………シャーロック?」
傍から見ればかなり褒めちぎっているが、私としては純粋な思いだった。
それを遠慮せずに言い切ると、ホームズの動きが止まって、徐々に俯き始めた。
髪でちょうど隠れて顔は分からなかったが、耳がほんのりピンク色に染まっているのが見えた。
顔を覗き込もうと近づくと、腕を掴む手が。
「……、て」
「え?もう1回、」
「もっと褒めて、ミレイ」
今度は私の動きが止まる羽目になった。
―なんて、子供らしいのだろう。
考えてみれば、天才的な頭脳を持っていたってまだ15歳なのだ。
……いや、年齢など関係無いのかもしれない。
「シャーロック……。ふふ、いいわよ。……シャーロック、貴方に解けない謎なんてないのね」
「……ふ、当然さ。いや……そうでありたいのかもしれない」
「大丈夫。私が保証するもの。……それに、シャーロックにしか似合わないわ」
「ふふっ……なら、僕に似合うのはミレイだけだ」
わざとらしくホームズを持ち上げると、物凄く上機嫌になり、口が饒舌になった。
未だに、頬はピンク色に染まっている。
まるで、恋をしているようだ。私がホームズにするように。
―そう。ホームズの、特に探偵としての能力を褒めると、想像以上に喜んで、子供のように無邪気に褒めて褒めて、と求めるのだ。
―これは近くにいる私だけの特権である。
〜終〜