シャーロック・ホームズ

□聖なる夜の来遊者
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「クリスマスの予定、何かある?」
「僕は何も」
「僕は、やっぱり家族と過ごすかな!」





世界はもうすぐ、クリスマスを迎えようとしていた。
クリスマスが近くなると一度家へ帰るため、今のうちにホームズとワトソンに予定を聞いてみようと思ったのだ。

……決して、寂しいという訳ではないけれど。





「ミレイは?」
「聞いておいてあれだけど……私も、家族と過ごすかな。毎年同じようにクリスマスを迎えるの」
「それも悪くないよねぇ。変わらないまま毎年出来るのは!」





私の家に限らず、英国のクリスマスは家族で過ごすのがお決まりだ。
他の国は知らないが、クリスマスでなくとも、家族で過ごす時間というのはどの国も素敵なことだと思う。

毎年手作りのディナー、ケーキを食べて、家を同じように飾りつけし、家族と会話を楽しむ。
そんなたわいもない時間だが、1年に1回のクリスマスに行うからこそ、懐かしく感じるし、心地いい。

だが一つだけ違う想いなのが、ホームズがいないこと。それは正直、快くない。





「……その、大したことが無くても、手紙送ってもいいからね。その、どんな風に過ごしたか、知りたいというか……」
「はは!そうだね、僕もミレイとホームズの過ごし方、知りたいなぁ」
「ミレイはともあれ、僕は本当につまらないと思うよ」
「そ、それでもいいの!」
「そうそう、友人が元気にしてるかどうかでもいいんだよ!」





ホームズは相変わらずの興味の無さだが、私が"手紙を送ってほしい"的なニュアンスのことを言ったとき、にやりと口端が上がっていた。
もしかして、と思ったが、寂しいなんて言えっこない。

とにかく手紙を送ることをやんわりと約束して、ついにクリスマスを迎えるのだった。










***










「……シャーロック……」





今年のクリスマスも、去年、一昨年と同じように過ごした。
それなりに楽しかったが、日付が変わろうとしている今でも、楽しさに複雑な思いが混ざり込んでいる。

ベッドに入るなり体を丸め、朦朧と彼のことを考える。
そうしていると眠れずにただただ時間が過ぎていった。





「……シャーロック、今何してるかしら。……ふふ、案外いつもと変わらないかもね」





ホームズが傍にいないことは辛いけれど、ホームズが今何をしているか、そういうことを妄想するだけでも気持ちが和らいだ。
ずっと心にわだかまりが残ったままでは、寝るにも寝れない。
だが少しでも安心が一滴垂らされれば、すぐに夢の世界へと飛び立つことができる。

やっとのこと眠気が出てくると、すぐに現実との境界がわからなくなり、――。





「Merry Christmas、ミレイ」
「ん…………っ!?ひゃっ!」





突如耳元にかかる吐息。
わざとらしくベッドが傾き、もう一人誰かがいて、そこに重力が行っているのがわかる。

いつの間にか、真後ろにホームズがいた。
眠たかったのにも関わらず、驚きが強すぎて俊敏に起き上がる。
また、急に寒くなったなと部屋を見渡せば、部屋でたった一つの窓が開いていた。

確信犯だ。





「しゃ、シャーロック!なんでここ、んむっ」
「静かにね。まだ寝てないとなれば、ご両親が見に来てしまうかもしれないだろう」
「……ぷはっ、そ、そう、だけど……!」





大きな声を出せば、細身ながらも力強さを感じる手のひらで口を塞がれる。
確かに、眠ったはずの私の部屋が騒がしいとなれば、両親が見に来ることは無いことはない。

そのホームズの手が非常に冷たく、身を震わせるとすぐ窓を閉めてくれた。
冷気が窓によって遮られると、一瞬にしてホームズと私だけの空間が作られたように感じた。





「ど、どうして……こんな時間に……」
「どうしてって、"寂しい"って言ったのはミレイのほうだろう?」
「!?さ、寂しいなんて、言ってないわ……!」
「どう考えてもそうだと思うけどね。……嬉しいくせに」
「……っ!」





ホームズ独特の笑みで言われたら、認めざるを得ないし、どうも丸め込まれてしまう。

そうだ。嬉しくて仕方がない。
今にでも抱きしめて、ずっと一緒にいてほしいって言いたい。
だけど、羞恥がそれを邪魔する。





「タイムリミットは朝までだが、どうする?」
「……どうする、って」
「ミレイの好きにしていいよ。僕はずっとここにいてあげるから」
「!…………っ、ねえ、」
「ん?」
「キス、して。いっぱい。あと……ぎゅってして」
「ふふ、かしこまりました」





全部ホームズに見透かされていたようだ。

触れられるところはすべて、というようにキスをされたあと、きちんと抱きしめてくれた。私のすべてを覆うように。
ホームズは、私が言ったことをすべて守ってくれたのだ。

だが途中に、注文以外のこともしていたけれど。





「大好きだよ、ミレイ」
「ええ、私もよ、シャーロック。最高のクリスマスプレゼントをありがとう」



〜終〜
 

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