シャーロック・ホームズ

□"彼女"の脳内記E
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"彼女"の脳内記E

私たち221Bの面々は、次の授業のために移動を始めた。
次は確か、ホームズさんが嫌いらしい教科。
ちなみにそのことはワトソンさんから聞いた。

だから、やる気がなく渋々教室へ行くのだろうと、私だけでなくワトソンさんも思っていた。



「ほ、ホームズ……!?」
「あの、ホームズさん……」
「なんだ、二人して」
「なんだ、って、ホームズ……次の授業は君の嫌いな教科じゃないか」
「ああ、そうだ。だけど、前に約束しただろう?」



下手したら一番くらい、ホームズさんがきびきびと動いていて、いつの間にか後ろにくっついていた。
"約束"が何のことか思い出せず、ワトソンさんと同じように首を傾げながら、同じように思い出した。



「そ、そういえば……」
「私のプライベート以外……ホームズさんが、ずっと一緒にいると……」
「危ないだろう。前の告白の件もある、モリアーティだって諦めてるとは思えない」
「それはそうだけどさ……」
「……驚きました。でも、悪くはないのでは?ワトソンさん」
「……それもそうだね」



あんなことがあったばかりなのに、忘れていた。
いや、だからこそ忘れていたのだろうか。
どっちにしろ、驚きはしたが嫌ではないから、彼がいれば安全だと納得した。

教室に入り、三人とも真っ先に席に着くと、後ろから誰かに話しかけられた。



「あの……ミレイ・シュヴェルツさん?」
「?はい、そうです」
「ああ、やっぱり……!壁新聞、拝見してます!」
「そうなのですね……!ありがとうございます」



話しかけてきたのは、初めて見る女子生徒。
壁新聞での私の活躍を見て、一目会って話したかったのだという。

彼女は元気で明るい子で、どんどんと会話が広がり、ついには友達になることができた。
私も話してて楽しかったし、何より辛くない。
こんな友達だったら、ぜひ欲しいと思ったのだ。



「じゃあ、お話はここまでにしておこうか」
「いいけど、何かあるの?」
「授業が始まるっていうのもあるけど……視線が、さ」
「え……?」
「じゃ、また壁新聞楽しみにしてるから!」



そう言って、彼女は自分の席に戻った。

ところで視線と言うと―。
後ろを振り返ると、優し気にこちらを見るホームズさんが。



「ねえ、ホームズさん。新しい友達ができたんです!」
「それはよかったね。ミレイはモリアーティのことで傷を負っているようだが、それを気にしなくとも好かれやすい」
「そんな、好かれやすいなんて……でも皆さん、以前よりかはよく話しかけてくれるんですよ」
「ミレイが解放的になったんじゃないかな」
「ふふ、そうですね」



その後、数分もしないうちに授業が始まった。
ときどき、ちらりとホームズさんのほうを見ると、行きのきびきびさが嘘のように怠そうにしていた。
机に伏せて目を閉じているが、眠っているときのような規則的な息ではない。

目を閉じているが起きてはいて、何か考えているように見える。

そのまま授業の終わりまで、ずっと目を閉じていた。
終わっても目を開けようとしないため、呼び起こすことにした。



「ホームズさん?授業終わりましたよ」
「……!っああ」
「考え事でも……?」
「まあ、そうだね。とにかく戻ろう」



考え事に没頭していたのか、はっとしていた。
一体、何のことを考えていたのだろう。

221Bへの帰り道も、ホームズさんは授業から打って変わって、私の後ろにぴったりとくっついて来ていた。
ただ、行きと違って、授業のときの怠そうな雰囲気を引きずっていた。
深刻なことでもあるのだろうかと、ホームズさんの顔を窺いながら歩いていた。



「あっ……!」
「ミレイ!大丈夫かい?」
「は、はい!すみません……」
「いいんだ。……っ、」



危ない、と思ったときにはもう遅かった。
ほんの少しだけ凹凸になっているところで足を躓いてしまい、倒れかけたところを、ホームズさんが支えてくれた。

また、ホームズさんの様子がおかしい。

私のことをじっと見て、そうしたら頬を手で挟まれて、さらに目が合うように向けられた。
あまりにも長く、そして覗き込むように見つめられていたものだから、羞恥で思考を制御できなくなり、体が固まる。



「ほ……ホームズ、さん……?」
「……」
「……っう、そんなに、見つめないでください……その……」
「……!ご、ごめん」



ホームズさんが我に返ったようで、それと同時に気が緩んで涙が出そうになった。

ただ見つめられるだけで、こんな風になってしまうのはなぜだろう。
そもそも考え事が気になる。明日、ホームズさんに訊いてみよう。
 

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