シャーロック・ホームズ

□"彼女"の脳内記D
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"彼女"の脳内記D

「やあ、帰ってき、た……ようだね?」
「すまないね、ワトソン。少々彼女と話があるのでね」
「席を外したほうがいいかい?」
「いや、君の自由だ。聞かれてまずいわけでもないしね」



221Bに戻るまで、さっきまでのことが頭から離れず、黙り込んでいた。
部屋に入っても、ホームズさんとワトソンさんの会話を、聞いているのか聞いていないのか、自分でもわからないくらいぼうっとしていた。

俯き加減でいると、ホームズさんがロフトへ向かい出したため、おそらくさっきのことを訊くのだろうと、何も言わず、拒否もせずついて行った。
ロフトに着くと、ホームズさんがこちらに向き直ったため、一応訊ねた。



「……あの……」
「なんだい?」
「何から、お話すれば……」
「……あぁ」



話すことがたくさんありすぎて、何から話して、ホームズさんに伝わりやすいように繋げるか、混乱してしまった。
だが、ホームズさんが私がやりやすいようにこう促してくれた。



「時系列で教えてくれないか。古いものから順に、ね」
「はい……わかりました。……えっと、事の発端は……私がまだ縛られている頃、ある男子生徒に告白されたんです」
「それが後の?」
「今日のあの人です。その生徒のことを話すには……あることを知っておく必要があります」



少しずつ、話のペースに乗っていけそうだ。

告白してきた男子生徒は親が優秀で、私を閉じ込めたモリアーティと繋がりがあった。
そのためよくモリアーティの部屋に出入りしていて、そのときに私のことを知ったと言っていた。



「一目惚れ……だったそうで、すぐに告白されました。でも、状況が状況で……少し長く立ち話するだけで、怪しまれます」
「……」
「ですから、彼は言ったんです。『いつか貴方が解放された日、そのときに答えを聞きましょう』……と」
「だから面識があるような口ぶりを……」



解放されることは、私にとってあの時の一番の望みだった。
だがそれが約束されてから、半分恐怖も持ち合わせるようになってしまった。



「もちろん……なかなか答えを出せなかった私にも、非はあります。でも、まさかあんなに感情的になられるなんて……」
「まったくだ。しかも暴力を振るおうとするなど、君の彼になる資格はないね」
「!え、ええ……」
「……怖かっただろう」



彼が天才的に持ち合わせている、人を宥めるような優しい口調。
それが今の状況と相まって、熱いものがこみ上げてきた。
変なプライドか、涙を見せたくなくて手の甲を口に当て、涙が溢れ嗚咽するのを抑えた。



「なんてひどいことを!」
「わ、ワトソンさん」
「あ……ごめん。盗み聞きしちゃった。何があったのかは知らないけど、その会話だけで怒りが沸々と湧き上がってくるよ」



突然の声で驚いたが、ワトソンさんが顔を真っ赤にしてロフトを見上げていた。
この言葉だけでも、彼の優しさが窺える。

ワトソンさんのこの言葉でも、救われる気持ちだ。



「それにしても、ホームズ。彼女は見ての通りモテそうだ。だから放っておくのは危険じゃないかい?」
「……奇遇だね。僕も同じことを考えていた」
「え、えっと……どういうことでしょうか……?」
「君を一人で放っておくと、今日みたいに手を出してくる輩がいるかもしれない、ということさ」



ホームズさんとワトソンさんは同じことを考えていた、というように目線を合わせている。
だが、いまいち理解しきれていない。



「……ねえ、僕とずっと一緒にいるのは嫌かい?」
「えっ、いいえ、嫌ではないです、けど……」
「どういうことだい、ホームズ?」
「授業前後の移動や、その他校内の移動。彼女自身のプライベート以外は、ずっと僕がくっついていようと思ってね」



ホームズさんの言葉が波のように押し寄せて、いつしかパニックになり、しばらくの間固まってしまった。
その後は、ずっと一緒……、ずっと一緒……、と言葉がぐるぐると回っていた。



「わ、ワトソンさん……どうしましょう……」
「あ、あはは、はは……」



またいろんな意味で、波乱な日々が訪れそうだ。
それでも、とっても幸せな気持ちだ。
 

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