シャーロック・ホームズ

□君だから悪戯するよ!
1ページ/1ページ

「ビートン校も、ハロウィンって感じだね」
「僕は興味ない」
「うん、そう言うと思った」





私はホームズと221Bへ、私は辺りを見渡しながら、ホームズはただ前を見て飄々と進みながら会話して歩いていた。
何かとイベントモノに弱いのか、ビートン校は何かイベントがあるときに、校舎はその装いを変える。

ただ、ホームズはそんなことはお構いなし。いつものことだから気にしてないけど。





「皆、お菓子を持ってるね」
「ふうん」
「持ってない人は……いないなぁ」
「持ってないと何かあるのかい?」
「え、あ……」





興味ないに徹底しているのか、知識は当然無かった。
でも私は戸惑った。彼に例のアレを教えてもいいのだろうか、と。

どう考えても、本来の意味と違う方向に捉えられかねない。
そしてそれはやがて、私に向けられる。





「い、いいえ!シャーロックみたいに、ハロウィンに興味ない人いないんだなぁ、と思って……」
「……別に興味ないのは僕だけでいいけどね」





やるせない微笑で返された。
その瞳が、私の嘘を見抜いているのか、今言ったことを信じ切っているのかはわからない。





「ただいまー……あ、帰ってたのねワトソン」
「あ、二人ともお帰り!ほら見てみて、アドラー先生からこんなお菓子貰ったんだ!」
「アドラー先生が?」
「噂で、先生に"Trick or Treat!"って言うとお菓子を貰えるって。それで行ったら本当だった!」
「先生、毎年いろんな方法でお菓子配ってるからね」
「ところで、」





アドラー先生についてワトソンと盛り上がっていると、珍しく真剣に私たちの話を聞いていたホームズが話を中断させた。

あ、と思ったときにはもう遅い。





「Trick or Treatとはなんだい?」
「ああ、それはね……」
「わ、ワトソンっ……!」





私の制止の声も聞かず、ワトソンはすらすらとその意味を答える。
その聞く姿勢と、目の真剣さと言ったら、もはや背筋が凍るほどだ。

ワトソンから聞き終えれば、顎に手を当てて考える始末。





「悪戯、ね……」
「まあ、その意味も正しいかどうかはわからないけど……もう広く知られてるからね」
「そうか。良いことを聞いた、ありがとうワトソン」
「?役に立てたみたいなら、こっちも嬉しいよ」
「ほ、ホームズ……!」





これから先が危ういが、なぜかその後はホームズはいつも通り物思いに耽ったりして過ごしていて、何か起こりそうな雰囲気ではなかった。

そうやってホームズの動向を追いながら、就寝の時間を迎えた。
彼にその気がないなら追及する必要はない。気にせずに就寝の準備を始めよう。
そうしてロフトに上り、ベッドのシーツを捲った、ところだった。





「おやすみなさ、い……っ!?」





掛けるシーツを捲ると、そこには本の端のような紙に書かれたメッセージ。
なぜ見た瞬間驚いたのかというと、その筆跡が明らかに一人しかいないからだ。

そこにはこう書かれてある。





「『深夜、起きて僕のところに来てくれるかい。来なかったらどうなるか、わかっているね?』……シャーロック」





名前を書かないところがまた意地悪だ。
それがなお、私にだけに向けているのと、なんとなく支配欲を感じる。

もう就寝時間ではあるが、まだ深夜ではない。
こっそりホームズのほうのベッドを見ると、このメッセージを見た私の気持ちも知らないで、ぐっすり眠っている。

なんて、いじらしいことしてくるの。





「おやすみ、シャーロック。どっちにしろ答えは同じでしょ」





そう、眠るホームズに向かって呟いた。
仮眠なんてできるわけがないが、これから迎える夜のためにベッドに入った。










***










「ん……、今は……」





夢と現の狭間を揺蕩いながら、窓の外を見て勘で今の時間を確認する。
部屋は真っ暗で、僅かに明るい外のおかげで、手を伸ばした程度なら認識できる。
ホームズのベッドを見ると、そこには誰もいない。

嬉しい気持ちが過ったのは気のせい。





「シャーロック?いるの?」
「さすが僕のミレイ。忠実だね」
「あんな書き方されたら……」
「さあ、おいで」





この誘うような甘い声に翻弄されるようでは、私も完全に惚れこんでいる。
安楽椅子に座っているホームズが腕を広げ、ゆっくりその膝の上に乗れば、僅かに椅子の軋む音がした。





「いじわる。こんな不意打ち……」
「そのほうが面白味があるだろう?ワトソンに聞いたときからぴんときていたんだ」
「だから、シャーロックには話したくなかったのに……標的は私だし……」
「でも嬉しいだろ?」
「っ……!」





髪を指でいじり倒しながら、濁りのない笑顔を見せられれば、YESと言うほか無くなる。
たまらないくらい愛おしくなって、ホームズに抱き着いた。





「ねえ、もし私が寝過ごしてたりしたら、何するつもりだったの?」
「ただ一つ。寝込みを襲うしかないだろう」
「……やっぱり、そういうことだと……」
「ミレイが気づかないうちに……というのも、ある意味罰に値するだろうね」
「罰?」
「可愛すぎる罰だよ」





そう言ってホームズは、私を横抱きに抱き上げ、ソファへと連れて行った。
いつかはわからないが、彼にとってのスイッチが入ったのだろう。

やっぱり、こうなることを望んでいたみたい。





「お菓子はお持ちかな?」
「いいえ、シャーロック」
「じゃあ悪戯だね。タイムリミットは……ワトソンが起きるまで、かな?」
「もう、そんなに持たないわ、っん」





Trick or Treat!!
―お菓子が無くても悪戯するぞ!



〜終〜
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ