Sweet dreams-DGS

□今日は貴方だけの…
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今日はバロックの仕事が休みの日だが、用事があるらしく外出していた。
と言っても、そんな時間がかからないとも聞いていたので、私はそわそわしていた。

なぜそわそわしていたのか、それは後になってわかるだろう。





「あの……ミレイさま。こちらでよろしいのですか?」
「はい!私と大体同じ体型ですよね?」
「え、ええ……測定いたしましたので」
「じゃあ、今日中には返すので!ありがとうございます!」





私は屋敷のメイドさんから”あるものを”貸してもらって、寝室へと向かった。
部屋を眺める大きな鏡の前で、いつの日かドレスを着た日を思い出しながら鼓動を鳴らしていた。

そのメイドさんから貸してもらったものとは…………メイド服だった。





「ふふ。絶対に驚くに違いありません」






そうやって不敵に笑って、もしかしたらもう帰ってくるかもしれないと思い、すぐに着替えることにした。

屋敷にいる何人かのメイドさんの中で、私と体型が近い人がいたので、その人に貸してもらったのだ。
だからサイズは心配いらない。





「わあ……!可愛いっ!」





鏡の前で、それらしくくるりと回ってみた。

メイド服はとてもシンプルで、黒地のくるぶしまでの丈のワンピースに、真っ白で裾がフリルのエプロンをつけたもの。
スカートの部分はあまり多きぎず、それでもってゆるいギャザーによってふんわりとなっていたため、回るときまるで舞っているかのようだ。

雰囲気づくりに、申し訳程度のヘッドドレスもつけてみた。





「雰囲気もばっちりですね!あとは帰ってくるのを待つだけです!」





どうやら早く着替えておいたのは得策だったようで、その十何分後にはバロックが帰ってきた。
寝室の扉を僅かに開け、そこからそっと覗いてみると、真っ先に屋敷の真ん中に聳え立つ階段を上る姿が。

しばらくすると、隣の自室の扉が開いた音がしたので、その後私に会いに来るだろう。

さて、彼が扉を開けてきたら恒例の”アレ”を言うのだ。
どこかで聞いたのだが、詳細は忘れてしまった。





「ミレイ、」
「おかえりなさいませ、ご主人様♪」
「……!?」





何年もバロックと共にいたが、今回はその時間の中でもなかなかの動揺っぷりである。
扉を開けたとたんこれだから、部屋に入れなくなったではないか。

日常でよく見る、私ではない人の服を着ていて、それでもって先ほどの台詞。
彼を惑わすには十分であった。





「これはもう、作戦成功でございますね!」
「……これは、どういう」
「今日は何の日か、ご存知ですか?」
「いや……」
「”メイドの日”なのですよ!……由来は存じ上げませんが」
「だから、その恰好を……」





そう。今日はメイドの日らしいのだが、ハロウィンやクリスマスのようにれっきとした意味があるかはわからない。
だが、屋敷にいる間はメイドにお世話になるほう。
一度逆を味わってみたかった、というわけだ。





「ええ。ですからね、バロックさま。今日は貴方だけのメイドでございます」
「……ほう」
「何かしてほしいことがありましたら、遠慮なく言ってください!」
「……」





顎に手をあてて、かなり真剣に悩んでいるようなバロック。
さすがにここまで真剣になられると、一体どんなご要望が出てくるかわからない。





「……では。外套と手袋を外してもらえるか」
「!はい、喜んで!」





まずはメイドがするようなことだった。
お願いの内容よりも、こうやって彼のほうから言われてやるのも気分が良い。

まず彼の背のほうに回り込んで、ほんの少し背伸びして外套を外してやり、そっとたたんでベッドに置いた。
そして今度は彼をベッドに座らせ、私はそこに膝をつき手袋をそっと外した。

この私の一つ一つの動作を見ていくたび、バロックはご満悦そうであった。





「……はい。その、どうですか?」
「ああ……ここのメイドに劣らない、素晴らしい動作だ」
「そんな……照れます。ね、他にありますか?もっとしてさしあげたいのです!」
「そういうのなら……」
「?んむっ」





膝をついたままバロックを見上げていると、手袋を外した生身の指を、私の口に無理矢理入れたのだ。
わざと指を曲げて、舌に絡ませるようにしてくるその静かな”舐めろ”、という威圧に負けて渋々その指を舐めた。
はしたないことに、舐めるのに夢中のため口端から唾液が零れ出してしまう。





「んっ、ん……」
「くく……」
「ん、は……も、もう無理です……」
「なかなか貴重だった」
「そういうことばかりお願いするんですから」
「今日だけのメイドよ。日付が変わるまで付き合ってもらおう」
「……仰せのままに、ご主人様」



〜終〜
 

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