Sweet dreams-DGS

□13話
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なぜか屋敷に帰り、一番に強制的に連れて行かれたのは、バロックが主に事務として使う部屋だった。
たまに来ることがあるだけの部屋に、しばらくは居なければならないと思うと、気が遠い。
それに、既に彼が検事モードであるから、私の気分は被告人だ。





「聞きたいことが山ほどある」
「ご、ご察しします」
「まず閣下と共にいたのは?」
「こ、これはですね、閣下のほうからお誘いいただいて……」
「……珍しいこともあるものだな。その後は」
「ずっと閣下の執務室で……ざ、雑談を」





雑談と濁した途端、バロックの眉間の皺がさらに増えた気がする。
いつもより怖さが増してはいないか。

なぜか頭の中で、ホームズのことがよぎった。





「雑談、とは」
「え、えっと……私と、バロックさまのことを……」
「……正直に」





だんだんとバロックが簡潔に物事を伝えてくる。
どう考えても怒っている。……なぜ怒っているのかわからないが。

私はつい今朝から抱えていた気持ちを、正直に話すか迷っていた。
でも、よく考えたらもう終わったことなのだ。抱えたままでは自分自身にもよくないし、手放すべきである。





「…………ヴォルテックス閣下に、見抜かれたんです。私が”嫉妬”していると……」
「……!」
「ごめんなさい、くだらない話ですけれど、聞いてくださいね。……今朝、バロックさまが急遽お世話になられた女性に会うと仰いました」
「……」
「その時は、私も構わずに受け答えしたのです。その後閣下からの手紙があったのを拝見し、約束の時間まで暇つぶしをしておりました。……その間に、その。妄想が広がってしまって」





ぽつぽつと、ほぼ1日中と言えるほど抱えてきたどす黒い感情を、話すことで解放してやった。
一言でまとめてしまえば、単純に他の女性と話をしているのが許せない、ということなんだけれど。

そうやって簡単に済ませてしまうには、私がスッキリしないのだ。





「……と、閣下とお伝えする約束をしていたことは、以上でございます」
「…………ふっ」
「な……なんで、笑ってらっしゃるのですか……!」
「いや、想像よりも愛らしいことだったのでな」
「えっ、どういう想像を……」
「何でもない。……ミレイ、少々寝室で待っていてくれ」
「は、はい」





格段に表情が緩んだバロックは、そう言い残して部屋を出て行った。
私は彼が出てしばらくしてから、隣の寝室へと移った。

今思えば、今日はいろんなことがあったから、緊張もあってか体が非常に強ばっていた。
ベッドに横になって、体を伸ばすと相当凝っていたのだとわかる。

すると、バロックがワインを手にして戻って来た。
まだ夜ご飯も済んでいないが、今日は早めに飲む気分なのだろうか。





「バロックさま、そのワインは……」
「そなたを楽にしてやろうと思ってな。……あと、嫉妬などする必要もないと」
「!ま、まさか……」





なぜかサイドテーブルにはグラス―聖杯が2つ用意されていたが、こればかりはさすがに嫌な予感がした。
その聖杯にワインを注ごうとするバロックを止めに入った。





「お、お待ちください!私この後どうなるか……」
「構わん。私が保証してやる」
「でも……というか、どうしてそんなに私に飲んでほしいのですか?」
「……酔うところが見たい」





本音だな、と確信した。

しかし、私にすら本音を晒すかというと”YES”とは言い切れないため、一度ばかりはよいかとも思った。
ただ、酔うとどうなるかわからないから、アルコール分はなるべく少なくしてもらいたいところだ。





「……適度に、お願いいたしますね」
「!……ああ」
「……っ!?ちょっと、バロックさま。無理矢理は……」
「……口移し」
「うっ……聖杯で」





一瞬バロックが舌打ちをしたようにも見えたが、すぐ目の前に気を張らなくてはいけなくなった。

ベッドに座っていたため、彼はこちらまで聖杯を持って来る。
そしていつかの日のように、片方の足をベッドに乗せて、覆いかぶさるように近づく。

そして、聖杯を私の口元まで近づけると、零さずまた口に流れる量が少なくないようにと、器用に聖杯を傾けた。
薄く開いた口の中に、血とでも見間違えるような液体が注ぎ込まれる。





「ん……」
「…………どうだ?」
「……っ!なんだか、ふわっとすると言いますか……」
「早速回ったか」





美味しいという感覚よりも、飲んだ瞬間に襲ったふわっとした感覚のほうが気になった。
これが酔いというものなのだろうか、それに顔が少し熱くなった気もする。

バロックのほうを見ると、なんだか満足気であった。
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