Sweet dreams-DGS

□13話
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※この話には、飲酒描写がありますが、全て想像で書いております。作者に経験は一切ございません。
加え、キャラクターの特徴として出しているので、それを踏まえてお読みください。※






あの後私は、ヴォルテックスに部屋中の壁に敷き詰められている本棚の中から、興味のあるものを手あたり次第読んでいた。
閣下の言う通り時間潰しには最適で、それにここにあるものは普段読めないものも多くあり、一つの本棚にある本を読みきれないほどだった。

そして、あっという間に夕方になった時分。
たまたま閣下が執務室を離れてから戻って来た際のことだ。





「シュヴェルツ嬢、バンジークスからの電報だ」
「!ということは、もう?」
「しばらくすれば到着するであろう。そこまでここから遠くない郵便局だった」
「そうでしたか。じゃあ、私は彼の執務室のほうに……」
「いや。私も同行させていただく」
「!そ、そうでございますか!」





さすがに同行にはビックリしてしまい、ちょっと声が裏返ってしまったかもしれない。
しかしヴォルテックスは行く気が相当あるようで、紅茶を淹れてくれた使用人を呼びつけ、紅茶の片づけと私にはわからない要件を言いつけていた。

しかも、使用人が業務に戻る際に、”いろいろ頑張ってください”と囁かれた。





「が、頑張ります……」
「では行こうか」
「はいっ!」





同行すると言われたものの、自然に私がヴォルテックスについて行くような形になっていた。
それにしても、バロックと歩いているときもよく感じるが、こう権力のある人が通ると、道が穴のように開くのだ。

しかも閣下までの人となると、私も含めて様々な人から深々と礼をされる。





「シュヴェルツ嬢は堅苦しいのはお嫌いかね」
「えっ!き、嫌いとまでは言いませんが……ちょっとこう、申し訳なくなりますね」
「くく、お嬢さんは極めて謙虚で控えめな方のようだ」
「えと……あ、ありがとうございます……?」





きっと同国の人から見れば珍しいのかもしれない。
褒め言葉として受け取っていいのか迷ったが、ちらりと見えるヴォルテックスの表情が穏やかだったので、そう受け取っても害はないだろう。

そしてバロックの執務室の前まで来ると、お嬢さんが開けなさいと閣下に言われたので、遠慮せずに先に入らせてもらった。





「申し訳ありません閣下、特にお出しできるものがなく……」
「いいや、構わんよ。今日はお嬢さんと話せただけでも十分であった」
「!私も……閣下とお話出来て、非常に光栄です」





ちょうど沈黙が訪れようとしたとき、執務室の扉が開いた音がした。
その音のほうを見る前に、もう頭の中では勝手に確信していた。





「バロックさま……!お帰りなさいませ!」
「!ただいま。それに、閣下まで」
「バンジークスの用事の間―お嬢さんを借りさせてもらった」
「そうでしたか。たいへんお世話になったでしょう」
「なに、非常に有意義な時間であった。だがまた別件で時間が迫っている。あと数分で向かわねばならんのだ、だからお先に失礼しよう」
「あ、ヴォルテックス閣下殿!改めて、今日はありがとうございました」
「シュヴェルツよ、”伝えること”を忘れるでないぞ」





いつものヴォルテックスらしく懐中時計を確認して、颯爽と執務室を出て行った。
姿が見えなくなる間際、閣下の目がまた会おうと言っていたような気がした。

それに、最後に言った”伝えること”―。
また違う意味で緊張するハメになりそうだ。





「……」
「……」





やっとバロックが帰って来た喜びや安堵と、ヴォルテックスと約束した内容と。
この混ざり合った複雑な感情は、内側だけでなく、外側からも引き出されていた。

そう、バロックのほうも私とまんま同じ表情をしていたのだ。
特に目が、洗いざらい白状しろと罪人を疑うような。





「……あ、あの!」
「……なんだ」
「もうここに用がございませんでしたら……屋敷に、場所を変えませんか……?」
「……その代わり全て話すことだ」





静かに言い渡された条件ともとれるそれで、特に持って帰る物もなくオールドベイリーを出た。
屋敷までの距離は、徒歩で少々の運動となる程度なのだが、今日ばかりは距離が長く疲れた感覚がしたのだった。
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