Sweet dreams-DGS

□心配をかけたくないの
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倫敦の人気のない裏路地を、多少片方の足を引きずっているように歩くのはミレイ。
同居人のバロックのために、行きつけの店でワインを買った帰りなのだ。

足を引きずっているためか、普段のペースで歩けないミレイ。
現在は仕事中のバロックがいるオールドベイリーまで、息も絶え絶えに、自由の利かない足でゆっくりとたどり着いた。





「はぁ……。いつもより、倍以上もかかってしまいました……」





オールドベイリーは路地裏の真逆と言えるほど人が多いため、自然にミレイのある体の部位に視線が集中する。
そこは服に隠されながらも、赤く血で滲む膝だった。

彼女はバロックの同居人ということもあり、認知度は意外と高い。
そのため、心配そうに話しかけてくれる人もいた。





「シュヴェルツさん、怪我でもしたの?ハンカチでも貸してあげましょうか?」
「!い、いいえ、大丈夫ですよ。私がやりますので……心配してくれてありがとうございます」





このような会話が複数回繰り返され、ミレイはやっとバロックの執務室に着いた。

入るなりソファに一直線に向かって、力が抜けたように座ると、ふうと一息ついた。
さっきまでは、ここに着くのに一生懸命だったが、その使命が終わった途端に痛みが一気に襲う。

…そこまで重大な事件とは彼女は思っていないようで、まずどうやって止血するか考えていた。





「えっと……布、布……縛ればいいのかな?」





どこかで目にした程度の知識で、止血しようと考えを巡らすミレイ。
布の切れ端のようなものでもないかと、執務室を歩き回っていると―。





「ひっ!?……あ」
「ミレイ、」





執務室の大きな両開きの扉が開き、主であるバロックが戻って来た。
当然のことながら、彼の視線は私の膝を見ている。

というか放っておきすぎたのか、滲んだ血が始めより拡大して滲んでいる。





「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!バロックさま……」
「ミレイ、ワインを買って帰ってきたのか?」
「えっ、ええ……」
「ということは、いつもの道か?」
「そうでございます……」
「まさか、不審者にでも襲われたのか?」





バロックがまくし立てるたび、ミレイの心の中は複雑な思いが渦巻いてゆく。
本当のことを言ったほうがいいのだけど、その真実は彼女にとって恥ずかしいこと。

それを晒すか、悩みどころであった。





「ば、バロックさま……それは、違うのです」
「……そうなのか?では、その血は……」
「っ、あ、あの、笑わないで、聞いてくださいますか……?」
「……わかった。とにかく、血を止めろ」
「あ、そうでした!」





また布を探すのを再開すると、案外すぐに見つかり、バロックの手も借りて止血した。

一旦落ち着くと、バロックが睨んできたーそのように見えた―ので、もじもじしながら、事の顛末を話した。





「あ、あのですね……いつも通り、ワインを買ったのですね」
「あぁ」
「……そのあと……えと、」
「早く言え」
「……こ、転んでしまったのです、へへ」





バロックは目を見開いて、後々ため息をついていた。
ミレイはもう笑うしかなかった。





「……もしや、また?」
「うっ……ええ、何もないところで……」
「はぁ……あのな、いつも通っている道でも気をつけろとあれほど……」
「申し訳ございません……あ、でもワインはちゃんと守ったのですよ!」
「ミレイのほうが大事に決まっておろう」
「っ!もう、急にそういうこと言うんですから……」





バロックは呆れ果てていたものの、終わりの方はミレイを愛おしむように笑っていた。



〜終〜
 

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