Sweet dreams-DGS
□視界のその手
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それは、倫敦市内をバロックと共に歩いていたときのこと。
親密な関係であっても、そこまで会話することがない私とバロックなのだが、それゆえぼーっとすることがよくある。
きっと誰もが認知していることだろうが、バロックは相当身長が高く、
隣というか、一歩分くらい後ろを歩いている私には、彼の手が視界全体に映る。
それくらい私の身長が低いのでは、というのは触れないでおいて、彼はほとんど外出する際には、常にガントレットのような手袋をしているのだ。
それを、私は歩きながら目で追っていたのだ。
「……おぉ……あっ」
「……」
あまりにも熱中して、バロックの手だけを見つめていたため、時々何もない道で躓きそうになったりした。
始め彼は、小さく感嘆する声を上げる私を気にせず歩き続けていたが、人気のなさそうなところで突然立ち止まった。
それでも、私は彼の手を見つめていた。
「……おい、ミレイ」
「…………バロックさまの、手」
「?」
「……ふふっ!気持ちいいです〜」
「!ミレイ、何を……」
気づけば私は、バロックの手を取り、その甲を頬ずりしていた。
特に理論はないのだが、その手に触れてみたくなった。ただそれだけである。
案の定、彼は驚いて固まっている。
「ねえバロックさま、その手で、頭をなでなでしてください!」
「!……わ、わかった」
「ふふ〜」
バロックは一瞬戸惑いながらも、頬ずりした手で私の頭を撫でてくれた。
私から見ると彼の手は大きくて、その手で頭を撫でられると、ものすごく安心するのだ。
と、考えたのもついさっきで。
自分で言うのも何だが、今の私は気まぐれな猫のようだ。
「そなたが要求するとは、何かあったか」
「ん、いいえ。特にございませんよ。あ、でもずっと手が見えるものですから、気になって」
「……そうか。ほどほどにしないと、本当に転んでしまうぞ」
「!そうですね、気にしてませんでした。でも、大丈夫です!バロックさまの前で転ぶので」
「……どういうことだろうか」
「絶対受け止めてくれます」
「……はぁ」
この時は呆れ果てたようにため息をつかれたものの、再度歩く際には何も言わず手を繋いでくれたのだった。
〜終〜