Sweet dreams-DGS

□休日の書斎
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バロック・バンジークスが目覚めた頃は、もう朝と呼べる時刻ではなく、もうすぐ昼を迎える時分であった。
まあ、今日は仕事が休みの日なので焦りはしなかったが。

もちろんこの時間帯になれば、腕の中にいるはずのミレイは起きているのだろうが、寝室にいない。
寝すぎた体を起こし、寝室を出て目に入った使用人をつかまえ、尋ねてみた。





「すまない、ミレイがどこにいるか知っているか?」
「ミレイ様なら、主より先に朝食を済まして、書斎に行かれました」
「書斎か……」
「主、朝食はいかがなさいますか?」
「ミレイのところに行ってくる。時間が経ちすぎたなら下げてよい」





そう言うと使用人はおじぎをして、食堂のほうへ歩いて行った。
おそらく、食べるかどうかわからない朝食を、保存でもしておくのだろうと思った。

さて、書斎はほんの少し複雑な場所にあって、まず屋敷の真ん中に堂々と聳える大きな階段を下り、寝室やバロックの自室がある東側とは逆の西側へ通ずる扉まで行くのだが、
そもそも屋敷のはなれに別に棟があり、屋敷とは一本の連絡通路で繋がれている。

そのはなれが書斎であり、そこへ行くには一度西側の部屋を通らなくてはならず、部屋を突っ切ってからまた連絡通路を通るのだ。
ちなみに連絡通路に窓があって、倫敦の様子を見ることが出来る。





「……ミレイ?」
「あ……その声は、バロックさま……!?」





書斎への扉を開けて、大きな声で名前を読んでみると、微かにミレイの声がした。
微かにとは言っても、この聞き慣れた声と口調は、どう考えても彼女である。

無闇に動くとミレイに可哀想だから、その入り口付近で待っていると、ミレイが嬉しそうに、ひょこひょことバロックの元へ駆け寄ってきた。





「ミレイ、すまない。遅くなってしまって」
「いいえ、いいんですよ。……それより、バロックさま、ちょっと来てくださいますか……?」





遅く起きてしまったことを詫びると、ミレイは曇りのない笑顔で許してくれたのだが、すぐに困ったような、はたまた恥ずかしそうな顔をして、バロックの腕を引くのだ。

もちろんバロックはついて行ったのだが、何があったのか見当もつかなかった。





「あ、あの……恥ずかしながら、その一番上の本を取っていただきたいのです……」
「……ああ、届かぬのか」
「っ!え、ええ……右から三番目の本を……」
「くく、そんな恥じらうことではない」
「で、でも……!」
「まあ、可愛いとは思うがな」
「ほらっ、そうやってからかう……!」





ミレイが届かないのは当然のことで、ここの書斎の本棚は、天井に渡って本が敷き詰められているのだ。
バロックでも多少背伸びをしなくてはならないが、簡単に取ることができた。





「ありがとうございます」
「いや」
「ね、バロックさま。せっかく休日ですから、本までとは言いませんが、ソファで隣にいてくださいますか?」
「……そうだな。いつも一緒にはいてやれぬし」
「ふふ、じゃあ……お膝に乗せてください!」
「仕方ない。お嬢様のわがままにも、たまには付き合ってやらないと」





バロックがそう言うと、ミレイは更に幸せそうにくすりと笑った。

屋敷の庭に生える木が窓越しに覗き、その窓際に置かれたソファに二人は座る。
ミレイはまるで猫のように、バロックの膝に上って座った。

バロックの両腕は常にミレイの腰に回されて、愛しい彼女が本に読み耽る様子を、延々と見守り続けていたのだった。



〜終〜
 

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