Sweet dreams-DGS

□10話
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眠ってしまった場所は、執務室のソファだった。
ソファなのは変わりないのだが、どう考えても、目をこすっても周りの景色が違う。

とにかく、物、物、物。
よく整頓されている執務室や、屋敷の部屋とは真反対である。
特に目につくのは、奥に見えるタイプライターや、後ろに見えるよくわからない器具やら。

そして遠い記憶と結びつくのが、壁に紙をナイフで刺したメモのようなものや、小さめのバイオリン、マントルピースに置かれた小物。
ここは―。





「ああ、起きましたか、ミレイさん」
「あ…………」





今の状況を処理、理解出来るまで10秒ほどはかかった気がする。
はしたないことに、ずっとポカンと口を開けてしまっていたようだ。

目の前の張本人と思われる男は、ニコニコしていた。
ああ、悪気が微塵も感じられない。





「……ホームズさん……」
「なんですか、そのガッカリしたような顔は」
「…………バロックさまは……?」





よほどバロックがいないことに不安を感じていたのか、私の表情にホームズも一瞬驚いて目を見開き、半ば呆れつつ話した。





「……はあ。君たちの愛はよくわかったよ」
「……へ?」
「ミレイさんの大好きで大好きで仕方ない死神くんは、ここにはいない。……というよりかは、君が死神くんのところにいない、っていう感じかな」
「ど、どういうことですか……?」
「君、よく眠っていたものだね。移動には全く困らなかったよ」





―まさか。

私の頭の中に、ホームズがしたであろう行動が思い浮かぶ。
何があって出来るようになったのか知れないが、彼はバロックの執務室に難なく忍び込む術を持っている。

だから、執務室には大して障害が無いとして、入ったら眠りこけている私を運び出し、多少は距離があるこの221Bへ連れてきた。
と、推測できる。

道中、不思議そうに視線を集めたりしなかったのだろうか。
それよりも、抱えられて外を運ばれ、それでも起きなかった私のほうが問題である。
途中で起きることが出来たならば、逃げれただろうに―。





「大体察しがついたような顔だね」
「……あまり表情を読まないでもらえますか」
「お気持ちはわかるけど、これが僕の仕事だし。―さて!本題に入らせてもらうけど、いいかい?」
「目的がなかったら、逮捕ものですよ」
「あはは!その時は死神くんのご厄介になるね」





目的があっても似たようなことだが、ホームズは気にせずに朗らかに笑っていた。
そういえば、初めて会ったときとは少々砕けて話しているような。

どっちにしろ、ホームズよりは年齢が下なのだから、気にしないでおこう。





「ホームズさん。本題とは……?」
「まあ、ミレイさんが言っている目的のうちなんだけどね。まずはうちのアイリス・ワトソンと会ってもらいたいんだ」
「あら!ワトソンちゃんに?」
「そう。彼女も会いたいと言っていてね。外出していたけど、もうすぐ帰ってくると思うよ」





ホームズの予想はピッタリ当たり、遠くからアイリスのただいまという元気な声が響いた。
そしてホームズは、私に詫びを入れてから、アイリスを迎えにこの部屋を出た。

玄関がすぐそこにあるのか、二人の話す声が聞こえる。
しばらくすると、アイリスの"えー!"という大きな声がして、私がいることを知ったのかな、と思った。





「さ、アイリス、ソファでお待ちだ」
「わ〜!貴方がミレイさん?話はホームズくんから聞いてるの!」
「初めまして、アイリス・ワトソンちゃん。私のほうも話だけ聞いていて、会いたいと思ってたの」
「そうなの!?嬉しい!そうだ、ミレイちゃんに特製のハーブティーを淹れてあげる!」
「まあ、ありがとう!」





そう言うとアイリスは、私が今座っている赤いソファから見えるピンク色が印象的な空間の、白い棚からティーカップを取り出し、
元々置いてあったポットからそれに注いだ。

それを私、アイリス、ホームズと3人分繰り返した。
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