Sweet dreams-DGS

□8話
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私は寝室に引きこもり、先ほど届いたドレスに着替えていた。
メイク、ヘアスタイル、そして仕上げに関しては得意なメイドに任せてやった。
そして着替えが終わり、メイドも部屋から立ち退いた後しばらくは―。

部屋にある特大の鏡に映る、自分が自分ではないような姿を一切動かず、じっと見つめていたのだった。





「……嘘、みたい……」





普段はおろしている髪を真上に上げてまとめられ、ほんのり薄いピンクのチークのおかげで、照れて赤面しているように見える。
ドレスの素材か、いつもよりキラキラしても見えた。





「……はあ……」





自己陶酔かもしれないが、ただただ金のドレスを纏う己にうっとりしていたのだった。
しかし、衣装に個が負けている可能性があったな。





「あ、もうこんな時間!そろそろ行かなくては」





気づけば、もうアフタヌーンティーと呼べる時間はとっくに過ぎていた。

もうすぐに出発するかもしれないため、身支度を整えておく。





「バロックさま……お着替え、終わりました。寝室にいらしてください」
「!ああ……」





隣の自室の扉をノックし、姿を見せることなくバロックを寝室へと呼び寄せた。
そして彼が扉を開け、ベッド脇に立つ違う私を見ると、珍しく目を見開いて、私を頭のてっぺんから足のつま先まで舐め回すように見ているのだ。

が、それも束の間、私のある一点だけをまじまじと見ているのだ。
その目は、なぜか遠い日を思い出すような、哀愁に満ちた目である。





「あ、あの……どうかなさいましたか……?」
「…………ここ。痛くないか」
「!!」





バロックが私に近づき、指で上から下に短くなぞったのは、鎖骨の真ん中―。

赤黒く残った、十字架の痕であった。





「今まで、ここが隠れる服を着ていたからな」
「……ご安心ください、バロックさま」
「……」





きっと今、私はやるせない笑顔をしているだろう。
でもそのやるせなさは、自分でかけた呪いのようなものだった。





「私は、傷ついたことなんて一度もありません。……いえ、体は傷つきましたが、心など一度も」
「……」
「だって、私は"いけにえ"なんですもの!私に流れる血は、貴方の血です」





記憶が、映画のワンシーンのように巡る。

私の体に流れている血が、破れた皮膚からはみ出るように零れ、彼の愛する聖杯を湛えていくのが。
私が彼を選んだ日は、偶然のように思えたが、見据えていたのだ。私の眼は、彼に魅入られることを―。





「私はバロックさまのことが好きです。……あまり、見くびるものじゃありませんわ。大人になっても、私には変わらぬものがありますのよ」
「…………幼い頃から純粋で、純粋すぎて、己の尊い命よりも……どうにでもなる私への忠誠に尽くした」





そのまま、バロックは左肩に自然に垂れていた私の髪を背に垂れさせ、更に鎖骨がよく見えるようにした。

そして、痛みなど疾うに消えた十字架の傷へ、口づけた。
たったそれだけで、感覚が血流に伝わった気がした。





「まだ、お着替えにならないのですか?」
「……会場についてから、だ」
「まあ、楽しみにしております!さあ、行きましょう!見ての通り、これが私の幸せですもの!」
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