Sweet dreams-DGS
□6話
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「ふーん、それで裁判を動かしちゃったわけだ」
「動かしたのはヴォルテックス首席判事閣下だがな」
「でもそれを考えたのはバンジークス検事だろ?」
「……」
バロックは、急に執務室に押しかけてきたホームズと来客用の椅子に座って、すんなり会話していた。
ホームズに聞かれたのは事件のことで、右手の指をこめかみにあて、左腕は腕を組む形にしながら話を聞いている。
何のために聞いているのかいまいち分からないが。
それにしても、ホームズは普通の奴ではない。
たまにバロックのどこかの紐が切れそうになったが、なんとか抑えているところだ。
「もうそのことはいいや。予定にはなかったことだがついで訊きたいことがある。いいかい?」
「……ああ、構わないが」
「ミレイさんとは夫婦なのかい?」
「…………」
実際にしたわけではないが、心の中ではもう頭を抱えているバロックがいる。
別に夫婦じゃないのなら夫婦じゃないと言えばいいのだが、ホームズ相手だとどっちに転がっても面倒だ。
だが戦ってみようではないか。
「……違う。……と言っても信じなさそうだな貴様は」
「それはひどい!」
「最初に夫婦ですかと訊くやつがいるか!」
「いいじゃないか、夫婦じゃないならそう言えばいいのさ」
舌打ちが、バロックの中だけに響いた。
戦ってみようと意気込んだものの、彼は相当強者だ。
もしこんなことをミレイに言ったら、「まさかバロックさんよりすごい方が……?」と口に手を当て驚く姿が目に浮かぶ。
「まず夫婦ではないし、付き合ってすらいない」
「えっ、それは驚いたよ!」
「ただ10年、共に暮らしているだけだ」
「…………」
またホームズは、バロックが事件について話した時のようなポーズをして考え込んでいる。
すると、急に人差し指をぴんと立ててバシッと決めて見せた。
……なんだろうか。
「じゃあ、その野暮なこともないわけだ?」
「……何を聞き出すつもりだ」
「いやいや、誘導尋問じゃないさ!単純に野暮なアレはないと、君が言ってくれたことを組み立てて推理しただけだよ」
「……まあ、そうだが」
「で、それから発展する気はあるのかい?」
こいつ、他人のテリトリーにずかずかと踏み込んでくる。
誘導尋問ではないと言いながら、それすらも化けの皮のようだ。
かと言って、今の彼の質問については真剣に考える気が起きていた。
―ミレイと、どうなりたいのか。
「……勝手に私が望んで、仕組むものではないだろう。元々彼女が私の前に現れ、あろうことかそれを快く承諾し、今に至っている。
ほとんどは彼女の意思で動いていたのだ」
「……ふーん。なんで受け入れたんだ?」
「さあ。ありはしても、貴様に教える意味はないであろう」
「…………で、彼女は何歳だっけ」
なんだ、話を聞いていないのか?
やはりこうやって少々打ち解けても、ホームズの性格や軸が見えてこない―。
名探偵とはこういうものなのだろうか。
「……22歳だ」
「そろそろ顔立ちとか体つきが美しくなってきただろう」
「…………」
「まずはハエ取りから始めるのが良いんじゃないのかい。まあボクが推し進めなくても、君なら簡単にやってのけそうだが」
「ハエ取り……?」
…………。
……。
男性を近づけさせないようにか。
「おい名探偵、私はミレイとそういう関係になりたいわけでは―」
「やっぱり、キスくらいはしとかないと。せっかくカッコいいんだし」
「…………」
「まずは、彼女自身を自分の全身で受け止めるところからじゃないかな!」