Sweet dreams-DGS

□5話
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いっぽう、執務室でくつろいでいるバロックは。





「…………美味いな」





彼がたいへん好む聖杯を嗜んでいたところだった。
まだ日が昇っている時にこうやってゆっくり出来るのは、ここ最近では珍しいと言えた。

―しかし、それは早速にして打ち破られる。





「失礼するよ」
「…………誰だ、貴様は」
「あれ、もしかしてボクのこと知らないとか?」





……知っているのが当たり前のように言うが、全く知らない。

謎の侵入者は、全体的に黄土色や茶色の服を着ていた。
それに、腰につけているポーチには3つの試験官があったり、頭には眼鏡とは言い難いが、かけるものであろうフレーム付きレンズがある。





「……知らないが」
「それはそれは!仕方ない、教えてあげよう」





目の前の侵入者は、バロックの顔の真ん前にある冊子らしきものをつきつけた。
表紙には、"ランドストマガジン"と記されている。

詳しくは知らないが、この侵入者が誰であるかは分かった気がする。





「世界的に有名な、"あの"!!名探偵シャーロック・ホームズです。以後お見知りおきを」
「…………」
「しかし、一部の人間からは"アノシャーロック"と呼ばれるんだ。どうしてだと思う?」
「……知るか」





確かそのランドストマガジンには、「シャーロック・ホームズの冒険」なる物語があった。
娯楽雑誌の、暇つぶしにはよい程度なものだとバロックは思っていた。





「で……その名探偵とやらは。なぜ私の執務室に来たのだ。私とは面識がないだろう」
「ああ、そうだったね。まあ本来の目的は他の人物にあるわけで。名前は知らないんだが」
「…………」
「名前は知らないとはいえ、追跡するのは簡単。その主の足跡だったり、においを追って―」





まさか、においを嗅いで来たのか。
それにバロックに目的がなく、ここに来たのだとすると……嫌な予感がする。

バロックは恐る恐る、その予感を聞いてみた。





「……まさかその者は、ここのもう一人の住人か」
「!!へえ、もう一人いるのか。で、そのお方は?」
「……今はその友人と共に不在だ。いつ戻るかは知らぬ」
「そうか…………」





するとシャーロック・ホームズは、目を閉じて深く考え込んでしまった。
それを邪魔する気はないが、そのまま立っていられるのも困る。

しばらくすると、ホームズは指をパチンと鳴らしてバロックのほうへ向き直った。
少々動きが鼻につくのは気のせいか。





「そのもう一人の住人は……ミレイという名前だね」
「……なぜ分かった」
「簡単な推理さ。会話してるときにも、この部屋のものを注意深く見ていたんだ。そうしたら、男ではなさそうな名前を見つけてね」





ホームズが視線を向けた先に、自分も追ってみると、そこはミレイの私物のようだった。

それはまたかなり細かいところで、よく見えたと言えるところだった。





「ああ、君の名前はバロック・バンジークス……それは入る前から分かっていたが。で、本当の用はミレイさんにあってね」
「……名探偵が食いつくような用は……」
「お、さすがに分かるかい?」





カヤ弁護士が目撃者だった、あの雑貨屋の事件。

名探偵から連想するのは事件、そして今訪ねて来てミレイに用があるのならば、その事件しかないだろう。
いやしかしなぜ彼女なのだ。





「その事件の目撃者、弁護士だそうだね。嫌でも情報が入ってくるんだけど、本人とはなかなか会えなくてね。せめて友人をと思ったわけだよ」
「……その友人という情報はどこから?」
「あの弁護士も顔がきくみたいでね、聞いたらすぐ情報が手に入ったさ」





まあカヤ弁護士の友人、そしてバロックと暮らしているともなれば簡単に引き出せそうだ。

どうやら事件の詳細を聞きたかったらしく、仕方なくバロックが話に付き合ってやったのだった。
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