Sweet dreams-DGS

□3話
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「ああ、なんとも美味でした」
「たまには外食も良いものだな」
「ええ、また連れてってくださいね!」
「仰せのままに」





机にチップを置いて、店を出た。
次はどこへ行くのかと聞こうと思った矢先、その声は様々な声でかき消された。





「……?何か騒がしいですね」
「……何かあったのだろうか」





ただでさえ人が密集している倫敦だが、一目見て分かるほど人が群がっている場所があった。
そこは十字路の一角で、顔が青ざめている淑女や、その逆で顔を真っ赤にし、隣の紳士と何か言い合っている紳士もいる。

さすがに興味を惹かれ、その群れをかき分けようとしたのだが―。





「!!きゃあああああああっ!」
「っ……ミレイ……」





私はすぐに目を閉じたが、見てしまった。その一瞬に。

―それは、角にある雑貨屋のショーウィンドウに広がる血しぶきと……、
その直下に横たわる、また血まみれの紳士。

その体はピクリとも動かず、息を確認せずとも死んでいる、と確信できた。





「…………」
「……見るな、ミレイ」





吐き気と動悸がし始めたすぐに、目に掌が覆われ、体が何かに包まれた。

だがそれは、すぐにバロックの左の掌と、彼のマントに全身が包まれたのだとすぐに分かった。
そのぬくもりは温かく、震えや動悸が落ち着いてきたのが分かる。

だんだん落ち着いてくると、遠くからスコットランド・ヤードの者たちがこの群れを制裁する声が聞こえた。





「……バロック、さま……」
「……検事として、放っておけない事態だが……ひとまずここを去ろう」
「よい、のですか……?」
「調子が悪いだろう。休める場所へ」





バロックは私の身を案じて、私の体を離さぬまま事件現場を離れた。

きっとこれから、スコットランド・ヤードによって捜査が行われるのだろう。
今彼が関与しなくても、どうにでもなる、か―。

気づけば彼に身を預けており、歩いているという感覚がなかった。
そして、全身に感覚が戻ったのは体を横にされた時で、そこは何かの建物内だった。





「…………ここは……」
「美術館だ。そこの自由に使える休憩場所にいる」
「……ああ、ご迷惑をおかけしました……」
「別に何とも。何より淑女があんな場面に遭えば、そうなるであろう」





辻馬車で移動したときのように、バロックに膝枕をしてもらっていた。
そして彼の右手が、私のお腹を優しく上下に撫でていた。

気づけば、あっという間に体調は元通りになっていた。





「もう大丈夫ですわ、バロックさま」
「なら良いのだが」
「ええ。……その、あのお方は……」
「……銃殺、と考えられる。……なに、ミレイは気にしなくてよい」





上体を起こして恐る恐る聞けば、優しい声で、優しい手つきで頭を撫でてくれた。
思わず涙が出そうになるほど、それは温かかった。

せっかく私の身を案じて、事件現場から離してくれたのだ。
何も恩返しは出来ないが、心配することだけはやめよう。





「そうだ、バロックさま。気分転換に……美術館、見て行きましょう!」
「そうだな。ミレイの気分が良くなるのなら」





ついさっき死体を見たとは思えぬほど元気になり、バロックの手を引いて今やっている展示の受付まで向かった。

よかった、彼がいて。
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