Sweet dreams-DGS

□3話
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辻馬車に揺られていること、数十分。
と言ってもほぼ寝ていたため適当だが。

意識は覚醒させたまま目を閉じていると、揺れが急に止まったため目を開いた。
上半身を起こすと、バロックが「着いたぞ」と声をかけてくれた。





「ここは……どこですか?」
「倫敦街の一片だ。ひとまず降りよう」





辻馬車の扉を開けて、また先にバロックが行く。
そして乗った時のように、手を差し伸べて私を支えるのだ。

弾むように降りると、またそこは人、人、人。
これでは紛れて悪事も働けそうなほどだ。





「で、ミレイ。そろそろランチの時間だが……長い外出だ。ここら辺の好きなところを選べ」
「!よろしいのですか……!?ならば、あそこにしましょう!」





私はずっと目に入っていた、とある店を指さした。


その外装は茶色が主で、装飾品もチョコレートのような深い茶色ばかりの、落ち着いた店だ。
落ち着いてはいるものの、両隣に並ぶ店と比べたら、別の意味で目立っていた。

中に入っても、外装と同じく床、天井、机椅子……全てが茶色だった。
店内ではこれまた落ち着いたジャズがBGMとして流れている。





「バーみたいなお店ですね……」
「それでも、ランチは色とりどりに揃えているようだな」





私たちは、二人ではあるがバロックの仕事のため、広めな4人席の丸テーブルを選んだ。
座るなり、早速バロックはテーブルの上に資料を広げる。
私はそれについて何も言わず、聞かず、メニューを開いた。





「あの、バロックさまの分もお伝えしましょうか?」
「ああ、頼もうか。私はビーフステーキでよい。酒はミレイのセンスに任せよう」
「えっ、良いのですか?」
「私が命じたワインでも、僅かに質が異なる。ミレイが選んだものはどれも美味だ。それ故の信頼である」
「あ、ありがとうございます……!では……」





ここまでバロックに信用されているとは、思ってもいなかった。
だって彼のセンス、舌で選ばれたワインなのだから、私のセンスなど皆無だろうと。

だが……。
市場などで手に取ったワインも、私のセンスの内と言うのだろうか。

ちなみに私も彼と同じビーフステーキにして、ほとんどの時間をワインを決めるのに費やした。





「これにしましょう。お願いします」





私はたまたまこちらに視線が向いていたウエイトレスを呼び、注文をした。
そして食事が運ばれるまでも……、食べる間も簡単な会話だけ交わして、目の前のビーフステーキの味に酔いしれた。





「ワイン、いかがでしたか……?」
「ふむ、なかなか良い」
「それはよかったです……!」
「…………」
「だから、飲まないと前から言ってるでしょう」
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