Sweet dreams-DGS
□2話
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イギリスの倫敦は、日付が変わる時にだんだんと近づいている頃。
自室で仕事をしていたのか、数時間は籠っていたバロックは、寝室に戻ってきた時にはお風呂上がりの様子だった。
私は寝室にある小ぶりソファで、本を読んでバロックを待っていた。
日中はコルセットを締め、とにかくきっちりした服を着ているのだが、もうクリーム色のゆったりした寝間着に着替えておいた。
なぜ待っているかというと、バロックと出会ってから10年間、ずっと続けていることがあるのだ。
それがもう大好きだから、だからたとえ日付が変わろうが、バロックを待つのだ。
すると、寝室の扉が開いた。上がってきたのだろう。
「あっ、お帰りなさい」
「あぁ。ミレイ、ワインを入れてもらえるか」
「はい!」
バロックは白のガウンを着ており、まだ水滴が僅かについていてなんだか色っぽい。
そんなことを考えている場合ではなく、バロックと入れ替わるようにソファから立ち上がり、ワインセラーへ向かう。
いっぽうバロックはソファに座って目を閉じていた。
ワインセラーは屋敷の地下にあり、お風呂場から階段を挟んだ右側の扉に、地下へ向かう階段があるのだ。
ワインセラーには、バロックから指定されて私が買ってきたワインが数本入っている。
どっちにしろバロックが選んだことには変わりないため、適当に選んで手に取った。
ちなみに、屋敷近辺とオールドベイリー近辺ではそれぞれ違う店のワインである。
「どうぞ、持ってまいりました」
「ああ、礼を言う。…………飲むか?」
「う…………飲みません。明日寝坊しちゃいます」
「ふ、律儀なのだな」
「たぶんクセです」
もう20歳を超えるのだが、子供の頃と変わらないとバロックに言われたことがあるため、私には嘘という言葉が無いようだ。
よく言えば、子供のように素直ということ。
だがしかし変わっていないのが事実だ。
「飲み終わったら寝ます?」
「そうしようと思っている。ミレイもずっと起こしてしまっていたしな」
「えへへ、それは好きでやってるんですよ。じゃあ先ベッド行ってます。ワインは適当に」
「分かった」
傍から見たら疑われそうだが、十年ずっとバロックと同じベッドで一緒に寝ている。
これはまあ、家族のような感覚だ。
だって、私にとっての家族はバロックだけなのは変わりないのだから。
「……ん、バロックさまー」
「なんだ」
「…………」
「……何か言え」
「寂しいです」
実は名前を読んだだけなのだが、急に訳が分からなくなって黙ってしまった。
とりあえず、寂しいと言っておいた。
それが本当だと思ったのか嘘だと思ったのか知らないが、バロックはこちらのほうに来てくれた。
半分悪戯心で、一つしかない布団をくしゃくしゃにして独り占めする。
「……」
「布団があるではないか」
「……」
「別に私は、布団がなくても眠れるが?」
「…………」
この悪戯に仕返しするように、バロックは軽く挑発してくる。
それに簡単に乗っかってしまうのが悪いと自覚していたが、さっき適当に言った寂しいが本物になってきた。
半ば涙目になって、ベッドに腰かけているバロックの腕を掴んだ。
「……布団、あげますから……ぎゅってしてください」
「……本気にしたのか、可愛らしい人め」
「からかわないでください」
「10年も好き好んでやってることを、やめるわけなかろう……」
ワインを飲み終わったのか否か分からないまま、バロックは私から優しく布団を剥いで、隣に横になってから布団をかけた。
そして、後頭部に彼の手が回り、胸に押し付けられる。
これが10年間、ずっとやって来たことだ―。
養子だとか、強制的にバロックの元に来たのではない。
私が10年前バロックを選び、初めて二人きりで過ごした夜からこうしていた。
10年目の、変わらぬ日の夜だった。