Sweet dreams-DGS

□1話
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私はミレイ・シュヴェルツ。
この中央刑事裁判所(オールドベイリー)のとある検事と、"今は"メイド的な立場で居候させてもらっている。
なぜ昔は違ったかのような表現をしたのかは、説明をすると長くなるのだが、とにかく昔は違ったのだ。

私の過去についてはさておき、その検事というのは、実は今は裁判で不在であり、居候しているというのもまずここはその検事の執務室だ。
するとそのことを考えたのと同時に、執務室の両開きの扉が勢いよく開かれた。
その音に胸を躍らせる。主のお帰りだ。





「バロックさま……!お帰りなさいませ」
「ああ」





主の名は、バロック・バンジークス検事。
死神なんて異名を付けられているが、雰囲気は案外その名に見合っている。
だけど私はそんなこと気にしてなくて、ただ心地よくて好きだから、バロックと一緒にいる。

裁判が終わったらしいバロックに声をかけると、微笑んだのか無表情なのか分からない微妙な表情で、私の頭を撫でた。

その大きな手に全てが包まれるような感じがして、目を細める。
元々バロックは表情豊かではないし、感情もあまり出さないため、行動で私は捉えている。
私には比較的豊かな気もするが。





「お疲れ様です。何かお飲みになりますか?」
「そうだな、ワインをくれるか」
「はい」





バロックは、法廷にすらもワインを持って行くほど、ワインが大好きな人だ。
私も既に酒が飲める年齢だが、酒にはめっぽう弱いため、飲んだら動けなくなるほど酔ってしまう。

だからいつも、バロックの分しか用意していないのだ。
ちなみに執務室用のワインセラーもある。





「どうぞ」
「あぁ」





私は、基本自分から仕事のこと―裁判などのことは話さない。
バロックから話しかけられるときだけ、対応するようにしている。
これは小さな気遣いによるもの、だろうか。

すると急に、小腹が空いてきた。





「私、おやつ用意してきますね」





私は酒が飲めない代わりに、紅茶とお菓子をいつもストックしている。
いわゆる、アフタヌーンティーだ。
裁判の後は疲れているだろうから、いつも執務室でそういう時間をとっている。

キッチンの棚には、いつもある籠が入っているのだが、そこにはわんさかと入っているクッキー。これがいつもの楽しみなのだ。

中にあるものを疑うほどその籠の底は深く、でもそんな籠を私は軽々と持ち上げ、机の上に落とすように乗せる。
案の定、バロックはワインを口にしながら目を見開いていた。





「……ミレイ、その量……。……太るぞ」
「なっ、全部食べる訳じゃないですよ!ほら、バロックさまも食べて」





私は籠の中のクッキーを適当に摘まんで、バロックに無理矢理食べさせる。
口端に食べかすを少し付けながらも、おとなしく食べていた。





「ふふ、美味しいでしょう」
「……まぁな」
「よいしょ。私、バロックさまの腕、好きなんですよ」
「ほう」
「こうやってもたれかかって……少し眠たくなるけど、そのさ中でこうしてクッキーを食べるのが、至福の時です」
「確かに……ミレイは温かい」





今の状態は、ソファに座っているバロックの横に座り、彼の腕にもたれながらクッキーを食べる。
それに幸せそうに笑っているため、傍から見れば不気味だ。

でも、バロックは嫌がる様子を全く見せず、寧ろ受け入れている。
これが、"10年間も"彼といた証でもあった。

そしていつも、私がどんどん寝そうになるため睡魔と戦うのだが、バロックの腹に頭が来てしまうのがオチだった。



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