Sweet dreams-DGS

□Innocent Trick
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ディナーを終えてからしばらくした、夜のティータイム。
ミレイとドレッバーは丸テーブルを挟んで向かい合わせに座り、
ミレイのほうは砂糖をたっぷり入れたミルクティーを、ドレッバーはストレートの紅茶を飲んでいた。

蕩けるように甘いミルクティーは身も心も、この空間さえも温かくしてくれるようで、
ミレイはだんだんと眠気に襲われて、
まだ僅かに残るミルクティーがぼやけ、首もこくりこくりと揺れてきた。





「!ミレイさん、」
「……んん……」
「ベッドに行きましょう」
「……でも……みるくてぃー、」
「気にしなくていいですから」





明らかに眠りそうなミレイの様子を見たドレッバーは、彼女をそっと横向きに抱き上げてベッドに連れて行った。
もし彼女の意識がハッキリとしていたら、きっとパニックになり抵抗の言葉でも口にしていたのかもしれないが、
眠気が勝ったのかぼーっとしたままドレッバーにしがみついていた。

そのままゆっくりとベッドの上に下ろし、シーツを肩までかけるとさらっと頭を撫でて、
ドレッバーは丸テーブルのところに戻ろうとした。

だが、突然ミレイに腕を掴まれベッドのほうへ引き戻された。





「ドレッバーさん……いかないで……」
「ミレイさん、……わかりました。ここにいますよ」





ドレッバーは手ごろな椅子をベッド脇まで持ってきて、なるべくミレイの顔と近くなるようにして座った。
ミレイはその光景をきちんと見届けていたが、直後には安心したようにすやすやと眠っていた。


――自分も随分と寛容になったものだ。
ドレッバーは目の前で無防備に眠る彼女を見つめ、心の中で呟いた。

いつの間に、"いかないで"というような言葉にすぐに従順になるようになっていたのだろう。





「……貴方のおかげで、随分とほぐされましたよ。
今まで憎悪や、怒りや、復讐心のようなもので生きていたのに」





ミレイの手をそっと握り、聞いてこそいないだろうが語りかけるように呟いた。
自分の過去、特にここ10年のことを思うと、彼女と過ごしていく中で本当にほぐされたように思う。

もし、この生活を守り抜くことができるのなら。
きっと自分は変われるかもしれない。
いや、変われなくとも、何か重大な間違いを犯さずに――最大の分岐点を間違わず、踏み外さずに済むかもしれない。

もう、手遅れだとしても。





「……ドレッバーさんは……」
「!」
「ドレッバーさんは、やさしいです……」





今の今までぐっすりと眠っていたはずのミレイが、ドレッバーの語りかけに答えるかのように呟いた。

ドレッバーは驚いて動揺し、彼女が起きていたことよりも、焦るようにして彼女の言葉に反論した。





「何を、言ってるんですか」
「だって、私をベッドまではこんでくれたり……ずっと、そばにいてくれたり……すごくやさしいです」
「オレのどこが、優しいんですか。もし優しい人なら、貴方を無理矢理連れて来たりしませんよ」
「ふふ……そうですね」





ミレイはどこかふわふわとした声でとろんとした表情だったが、受け答えはしっかりしていた。
冗談混じりに自虐するドレッバーに、それでも天使のような微笑みを湛えていた。





「でも……私のことがほんとうにどうでもよかったら、私が眠そうにしてても、ほうっておけばよかったじゃないですか」
「それは、そのまま寝落ちしたらミレイさんが風邪、を…………」

「ほら、優しいです」





そしてミレイはまるでいたずらをした子供のように無邪気に笑った。

ドレッバーは面食らって、しばらく言葉が返せなくなった。
彼女はその様子にくすくすと笑い続けていたが、
もちろんそこには一切の濁りもなかった。





「ドレッバーさんが本当にひどい人なら、今頃風邪をひいているどころか、私は放り出されてますよ」
「……全く、そうですね」
「風邪をひくことまで考えてくれるなんて、優しいに決まってます」
「本当に……貴方には敵いませんね」





ドレッバーはもう自分の行動に呆れて笑うしかなかった。
そして、ミレイの前では嘘をつけないということを知った。





「でも、誰にでも優しいわけではありませんよ。……貴方にだけです」
「わあ、それも本当ですか?舞い上がってしまいますよ?」
「ええ、どうぞ。いくらでも」





ミレイは嬉しさが抑えきれないというように、頬をピンク色に染めて喜んでいた。





「さあ、眠たかったんでしょう?今度はゆっくり寝てください」
「ごめんなさい……それが、嬉しくって目が覚めちゃいました」
「!ミレイさん……」
「でも、寝る時のおまじない……おやすみのキス、してくれますか…?」





OKと言う余裕すらなく、たまらずすぐに彼女の唇を奪った。
おやすみのキス、とは言うものの、触れ合うほどに熱が高まってきて、
どうにも離れ難く眠れる状況ではなくなってきた。





「んっ、はぁ……ドレッバー、さん」
「これ、どうします?……まだ眠りたいですか?」
「もう……意地悪です、」
「このまま、朝までいきましょうか」
「……はいっ、ドレッバーさん」





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