Sweet dreams-DGS
□4万人突破記念小説
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Barok Van Zieks/彼シャツ
***
「はあ、はあ……っ!」
足を踏み込むたび水たまりの水が跳ねる。
濡れきった服はもはやその役目を果たしておらず、髪の毛の先と共に水を滴らせるだけ。
今日私は一人で外出していて、その時は青い空と白い雲が映えていたのに急に雲行きが怪しくなり、ついには大雨が降り出したのだ。
もちろん傘なんて持って来ておらず、空から降る水はすべて直撃しているわけだ。
人生でも稀に見る全速力で倫敦の街を駆けていたが、屋敷に着いた頃には息も絶え絶えだった。
屋敷の扉のベルを鳴らすと、メイドがとても驚いた顔をして出てきた。
「ミレイさま!?まあ何という……!私めも外の様子を見て嫌な予感がしたのですが……」
「えへへ、このあり様です。あの、お風呂に……」
「ええ、ええ、それがよろしいでしょう。今から――」
「待て、後は私がやる」
「ご、ご主人様!」
「ば、バロックさま!」
慌てふためいたメイドの声を聴いたのか、バロックが屋敷の大階段を下りてこちらへやって来た。
メイドを下がらせると、バロックは私の姿を上から下まで眺める。
「……これは、大変な事態だな」
「何だか、すみません」
「ふ、なぜ謝るのだ。まずその服をどうにかせねばな……ミレイ、ついて来い」
「?はい」
上から下までびしょ濡れでは、もう呆れるしかないのだろうな。
バロックに言われた通りについて行くと、彼の仕事部屋でもある自室に連れて来られた。
すると急にバロックが自分の服を脱ぎ始めた。
「!?バロックさま、な、何を……!?」
「?その恰好では生活できないであろう」
「ま、まあそうですけど……違いますよっ、どうしてバロックさまが……」
「その服が乾くまでの間、私の服を着ているといい。それとも、裸でいるつもりか?」
「う……い、嫌です」
「ふっ、なら服を脱いですぐに私のを着ろ。シャツ一枚で……いけそうだな」
バロックは今の今まで着ていたシャツを脱ぎ、私に着るよう促した。
自然な流れで私もここで服を脱ぐことになったが、バロックは違う方向を見てくれていた。
彼曰く、
『お互いの同意と意欲無しに見るわけにはいかない』
ということだそうだ。
「あ、あの……下、見えていませんか?」
「ああ……大丈夫だ。通常の衣服だとしたら少し際どいが、な」
「ちょっと恥ずかしいですけど……何だか、バロックさまに抱きしめてもらっているみたいです」
「ふ、そうか」
この後メイドがお風呂が沸いたことを伝えに来てくれて、私はバロックのシャツを着た状態で浴室へと向かった。
伝えに来たメイドは頬を赤らめていた。
***
「バロックさま、お風呂入ってきました」
「ああ」
お風呂から上がった後ももちろんバロックのシャツを着る。
とは言ってもずっと生足を出しているため、恥ずかしいというか寒いというか。
いや、寒さに関してはメイドにブランケットを借りているので、
やはり問題なのは恥ずかしさだろう。
「……あ、足がすーすーします」
「ふっ……いっそずっとそのままでも私はいいのだが」
「えっ!そ、それは嫌です……だって晒されてるみたい……」
「大丈夫だ、誰の目にも触れないように屋敷の中だけでいればいい」
「そ、そんなぁ」
「寧ろこの綺麗な足を見せるわけにはいかないからな……」
「あっ!ど、どさくさに紛れて足触っちゃダメです!」
***