Sweet dreams-DGS

□"大"バレンタインは有象無象!?
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〜成歩堂龍之介・亜双儀一真〜

バレンタインの日が近づいてきた。
今年はお世話になった人がたくさんいるから、お礼の意味も込めて何か贈ろう。

やはりバレンタインと言ったらチョコレートだ。19世紀のイギリスは、チョコレートを贈ることに火が点いたばかり。
今我がイギリスから、世界へとチョコレートを贈る習慣が広まっているところだ。


だが、人によってはチョコレートを好まない、また贈りにくい人もいるかもしれない。
その時のために、贈る相手を思い浮かべて、チョコレートにすべきかプレゼントにすべきか、考えているところなのだ。





「……そうだ、リューノスケとアソーギはチョコレートは好まれるかしら」





人によると言ってしまえばそこまでだが、男性はチョコレートが苦手なイメージがどうしてもある。
バロックなら食べてはくれそうだが、また日本人の方となると、受け入れられるか不安なところだ。

それかこの際、きっかけとしてチョコレートを食していただこう。

そう決めた私は、リューノスケとアソーギには一番シンプルな生チョコを作ることにした。





***





「とりあえず、ホームズさんの家に行って……いなかったら、少し街を歩きますか」





バレンタイン当日。

まずはホームズの家、221Bの方向へ歩いていく。
リューノスケとアソーギはよく行動を共にすると聞いていたから、一緒に渡せればいいのだけれど。


なんとなく男女の組み合わせが多く感じる街を抜けると、見慣れた221Bの外観が見えてきた。
玄関へと小走りで駆けて行き、扉を数回ノックした。

……普通ならすぐに開けてくれるのだが、誰も出てこない。





「皆留守なのかなぁ」
「……あれ?もしかして、ミレイさんじゃないですか?」





もう少し街を歩こうか、と過った刹那、後方からよく知る声が。

振り向くと、目立つ真っ黒の服を着たリューノスケと、同じく真っ黒の服で、アクセントの赤い布を頭に巻き付けたアソーギがいた。





「どうしたんですか?ホームズさんにでも御用ですか」
「ミスター・リューノスケに、ミスター・アソーギ!ちょうどよかった」
「あれ、抱えていらっしゃるのは……」
「今日はバレンタインでしょう?」
「バレン、タイン……皆さん、確かにいつもと違う雰囲気ですね」
「あの、よかったら中に入りませんか?寒いでしょう」





リューノスケとアソーギに家の中に入れてもらい、リビングで温まりながら経緯を話した。
ついでに、バレンタインのことを知らなかったようだから、そのことも教えてあげた。





「え、え、僕たちに……!?あ、ありがとうございますっ……!」
「ふふ、そんなに慌てなくても」
「だ、だって外国の人にプレゼントを貰うなんて、初めてで」
「私も、バロックさま以外にあげるのは初めてですよ。でも二人に出会って、お世話になったから、そのお礼として。よかったら貰ってくれますか?」
「ええ……!喜んで!ああ、お返しもしなくては」





想像していた以上に、二人の反応がよかった。
簡単なラッピングをした生チョコ入りの箱を渡せば、リューノスケはそれを手にして震えていた。
アソーギも初めての経験に、まばたきを惜しむかのようにじっと見つめていた。

またその箱を開けると、新鮮な反応をして見せる。





「わぁ、なんだ、これ……!?」
「もしかして、バレンタインで贈られる、チョコレートなるものですか?」
「そう、生チョコって言うんです。二人とも、チョコレートは初めてですか?」
「名前だけ聞いたことがあります……食べるのは、初めてです」
「あ、あの、早速食べても!?」
「ふふ、もちろん」





リューノスケは目を輝かせて、恐る恐る生チョコを1個つまみ、ゆっくりと口に運んだ。アソーギもその後に続いた。

二人とも、口に入れた途端に目を見開き、顔を合わせた。
しばらく誰も話さず、ただただ未知の物への感動を味わっている。
その目には、興奮や、疑問も混ざっていた。





「す、すごい……なんだこれ……」
「口の中に入れたら、とけていく……でも、とても甘い。チョコレートって、不思議な食べ物だなぁ……」
「あの、いかがでしょうか。お菓子作りはたまにしかしないもので」
「まだ、チョコレートの出会いに驚嘆しております。でもものすごく美味しいことは確かです!」





ああ、よかった。とても喜んでもらえたようだ。

と言っても、感想を言ってくれたのはアソーギだけで、リューノスケは一心不乱に生チョコを食していた。
これには私も呆れてしまうが、作り手としては十分なお返しだ。





「あ……ミレイふぁん、ちょほ、ありはほうごはいはふ!(ミレイさん、チョコ、ありがとうございます!)」
「どういたしまして。あまり入れすぎると危ないですよ」
「んん、へへ……食べ物に目が無くて」
「……あ、そうだ。二人とも、ホームズさんの帰りっていつかわかりますか?」
「ホームズさん?あ、もしかしてチョコですか?」
「ええ、ちょうど一緒に渡せないかと……」





初めはリューノスケとアソーギにあげることが目的だったが、221Bに来たのならホームズにも渡そうと、ついさっき考え付いたのだ。
するとリューノスケが、まだホームズは帰って来ていないと言う。
しかも、いつ帰るかすらわからないようだ。

これは困ったと頭をひねるが、答えを出すのに時間はかからなかった。





「私、他の方にも渡すから……一度ここを離れますわ。また時間が経ったら戻ってきますから、ホームズさんがいらっしゃったらお伝えください」
「わかりました!緊急は電報で」
「はい!二人とも、ありがとうございます。では失礼いたします」
「ありがとうございましたー!」





リューノスケとアソーギに別れを告げて、221Bを出た。
次の目的は―中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)だ。
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