Sweet dreams-DGS
□16話
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「……あのー、お待たせしまし、た?」
「……遅い」
案の定バロックが先に部屋にいて、部屋に二つあるうちの一人掛けソファの一つに、足を組んで多少不機嫌そうに座っていた。
ひとまず謝るために、急いでバロックの元へ駆け寄る。
そればかりに気を取られていて、忘れていたことが。
「すみませ、……あ」
「……」
「……」
「…………似合っている」
「……バロックさまの、方こそ……その、直視できません」
近づけばどうあがこうとも目に入る、ユカタ姿。
バロックに至っては、足を組んでいるため裾から覗く生足。
それを言ってしまえば足に限らず、腕や鎖骨だって普段より露出しているし、髪が濡れていてだらんと垂れているところもある。
普段目にしない部分が露出されすぎて、脳が処理しきれなくなっている。
ああ、見れない。部屋の物しか目に入らない。
「……反応が大げさすぎるだろう。いつも見ているではないか」
「なっ……いつも隠すような服じゃないですかっ……!」
「それを言ったらそなたもそうだと思うが。……今から言うことをしろ」
「!待ってください、早すぎます、お風呂からあがったばかりで……!」
「それは私も同じだ。……まずそこに座れ」
「……床、ですか?」
訳がわからなかったが、これでバロックの機嫌が直るならと思い、地べたに座り込む。
すると少し満足気な、嗜虐的な目に変わった。
一抹の不安を感じつつも、次の命令を聞く。
「では、そなたの足をここに乗せろ」
「は……はいっ」
「ふ、少し動揺しているようだが」
「っ……」
バロックがここと示すのは、自分の太ももあたり。
そこに私は右足を伸ばし、そこに乗せた。
このような体勢をするのなら、立ち位置が逆でもいいのに、と思ったがきっと彼の思惑でもあるのだろう。
「そなたが動くのはここまでだ。これからの仕事は、じっとしていることだけだからな」
「じっと……」
「何をされても……あまり動くな」
足を自分より高い位置に上げ続けるのは、かなりきつい。
だがまだ、バロックに支えられていることがせめてもの救いか。
それも然ることながら、ユカタを着ているという異例により、あまり晒したくない部分が晒される。
それを隠すという行為すら恥ずかしい。
すると、バロックの指が足の爪を丁寧に滑り始めた。
「っ……!バロックさま、何を……!」
「何を?……しばらくじっとしていれば、教えてやろう」
爪先を滑る指は、指の裏を行ったり、指と指の間を行ったり、それはもう丹念だった。
足が普段伸ばさないところに伸ばしているため、嫌でも意識が向く。
するとさらに感度が上がって、じっとしているだけでも精一杯だった。
時々吐息が漏れ、そのたびに頭がパニックになる。
「……耐えているな……ふ、嫌いではない。その姿」
「っは、……そ、れは……よかったです……」
「爪先だけであるのに……さすがはミレイだ」
「っう……はぁ、バロックさま……!」
バロックが、喜んでいるのはわかる。
だが生理的な涙で目の前が霞んで、表情がわからない。
でも、彼が嬉しいのなら、私も幸せだ。
「……いい子だ、ミレイ。きちんとじっとして待っていた褒美に、これから何をするか教えてやろう」
「!……お、教えてください」
「せっかく、"ユカタ"なるものを着ているのだ。……極東でもそうであるのかは知らぬが、ここは足を堪能するほかなかろう?」
「そ、れは……!」
何も言い返せなかった。
もとよりバロックに言い返せるほど頭はよくないが、私自身も同じことを考えた、と言わざるを得なかったからだ。
何と言ったって、最初に目に入って意識したのは、生足なのだ―。
「異議はないか。では、失礼して……」
「な、何を、するおつもりですか……っ!それに、あまり綺麗では……」
「気にするでない。そなたはただ、おとなしく私のすることを受け入れていればよい」
「っ……でも、舐めるのは……!」
「好きなだけ声を出せばよい。壁が薄かろうが、聞こえるほどでもなかろう」
「そういうことでは……っう、」
黙っていることを了解と受け取られ、足は乗せたままバロックの口元まで近づけられた。
まずはかかとをすくい上げるようにして持ち、爪先に口づけをした。
そのまま彼の口は足の甲へと向かい、ゆっくりと、そしてさっきの指使いのように丹念に舐め始めた。
―足を舐めるという行為をしているのに、バロックに攻められているということに変わりないのは、なぜだろう。
バロックがソファに座って、私が床に座っているのも、そういうことなのだろうか。
「ひゃっ、やめ、てください……ぅう……」
「……どうだ、屈辱的か」
「んっ、あ……うう、どうして、バロックさまが……そんなに、たのし、そうに……」
「まことに、不思議なことであろう……本来の行為ならば、そなたが上に立っているのだが」
「……なんで、っあ、はずかしい、おもいをっ……!」
「そなたが物好きなだけでは?くくっ……」
違います、と否定したくても、それに快感が勝ってしまう。
私としては、あまり高い声は出したくないのだが……。
しかし耐えたは耐えたで、どっちにしろバロックの機嫌が良くなるだけだ。
彼の言った通り、私は受け入れるしか今は無いのだ。
「ミレイ、まだ元気か」
「ん……ちょ、ちょっとです」
「ふむ……まあいい。倒れたらそのときだ」
「え……」
足の先を堪能し尽くしたのか、それとも面倒になったのか、私の足を離したと思ったら、今度は抱き上げて自分の膝に座らせた。
右足が少し痺れている。ずっと上にあげていた感覚と、舐められた感覚とが混ざり合って、不思議な気持ちだ。
足の先にあった標準はだんだん上へ上がっていき、飽くことなく足を中心に堪能し続けた。
―疲れ果てた頃には、観光街の灯りすらも一切消えてしまい、本当の夜が辺りを包んでいた。