Sweet dreams-DGS

□燈火は消えてもなお影を映す
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・時系列は10年のうちの中盤あたり。
・キスするような関係ではありますが、互いの好きという想いを伝えれていない複雑な関係です。





***
「帰ったぞ、…………?」
「あ、お帰りなさい」
「なんだこれは」





バロックが部屋に帰ってくると、いつもと違う異様な光景が広がっていた。
すぐに目が行ったのは、密かに互いに想いを通わせているミレイ。
椅子を台にして、壁に何かを吊るしていた。

見ても何だかわからないが、目立っているのはカボチャだ。
なぜか目と口がくり抜かれており、よく見るとその奥で灯りが灯っている。





「ハロウィンですよ。ご存知ありませんか?」
「……」
「これはすべて、メイドさんから貰ったもので。こうするものと……教わりました」
「む……そうだったか……?」
「実は、私も知りません」





ミレイはにっこりと笑って言い切った。
その清々しさに、バロックも苦笑して返すしかない。

すると、ミレイが何か困ったような顔になって、バロックのほうをちらちらと見始めた。





「どうした」
「う……。ん……」
「?」
「……降りれません……」





椅子の背もたれを掴んでしゃがむミレイ。
確かに彼女にはまだ少々大きい椅子で、片足ずつ伸ばせば床につきそうだが、怖がりなところも多少あるためか。

しかしなぜ上れたのだろうか。それはおそらく永遠の謎だろう。





「わかった。私の体に掴まれ」
「は、はい……」





椅子の前まで来て、ミレイの腰あたりに腕を伸ばしてあげる。
彼女は少し怯えながら、バロックのほうへ腕を伸ばし、飛びつくように体に掴まった。
バロックはそれをびくともせずに受け止める。





「……すみません……」
「別にいい」
「……」
「ところで、」
「……」
「そろそろ離れないか」





バロックに抱き着いてから、なぜか離れようとしないミレイ。彼の首に腕を巻き付けてまでいる。
まさかとは思うが、眠っているわけでもなく、寧ろバロックの目を射抜くように見つめている。
こんなに見つめられると、いけないことをしそうだ。決して、一つの意味に限らず。





「ずっと、」
「?」
「ずっとこのままでいてください。私は、ここが安心します」
「……そう望むなら、構わぬが」
「抱擁というものは……いいですね。全身で、貴方に触れられる……」





今度こそ、眠たそうに目を閉じるか、閉じないかの瀬戸際。

長い間、部屋をハロウィンの装いにしていたのだろう。
10代の後半である彼女だが、いろいろな事情で人並みよりまだ純粋だ。
だから、メイドに教えられたハロウィンの光景が、何か心のどこかに響いて、感化したのだろう。





「全身で、か……」
「ん……もっと、心を開ければ、いいんですけど」





だから、バロックも手が出せないでいる。

ミレイの言葉がなお深みを増させるが、同じ真意で言っているのかはわからない。
すると、自ら巻き付けていた腕を解き、床に降り立った。
バロックに何か言葉を言い残すわけでもなく、まだ僅かに残っている飾りを付け始めた。





「バロックさま」
「なんだ?」
「今夜は、カボチャパーティーです。一緒に食べましょうね」
「!……ああ」





ハロウィンの夜は、ミレイが作ったジャック・オ・ランタンの灯りが、二人の影をその火が消えるまで映し続けた。

いつか、二人に何度も訪れるハロウィンの日に、想いが通じ合って、抱擁よりも熱く触れあえるときが来るのだろうか。



〜終〜
 

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