Sweet dreams-DGS

□15話
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そのホテルは縦横共に長く、外からでも広さが十分に感じられた。
外観のデザインだったり、建物の感じで言えば、遥か昔の面影を感じさせる。
建物の真ん中が入口で、そこを軸に左右に棟が延びている。

ホームズは代表で受付をしに行ったため、私たちはここでしばし待機だ。





「結構綺麗だね」
「ねー!ここにいる間に記念写真撮りたいな〜」





ジーナとアイリスが子供らしく、辺りを見渡しながらきゃっきゃと喜ぶ。
と思いながらも、私も外観から心底感動しており、今でも内装に目を奪われている。

ホームズが戻ってきたのもあっという間だった。





「では、部屋の振り分けをお伝えしよう。と言っても、ほぼ座席と同じペアだと思ってくれればいい。棟は入口正面から見て左、部屋は……」





こんな風にホームズの仕切りが続き、部屋の振り分けが決まった。

部屋は二人で一部屋、そのペアは列車の座席と同じメンバーだ。
ただ一つ違うのは部屋の階で、リューノスケとアソーギ、スサトとジーナは4階、私とバロック、ホームズとアイリスは5階と分かれている。

振り分けを聞き終えると、最後にホームズから鍵を受け取った。
そこに番号が彫ってあり、その番号が部屋番号となる。
何かあれば、代表であるホームズの部屋に来るように、ホームズの部屋番号は覚えるようにと忠告された。





「もうここから次の朝まで自由だ。部屋分けはしてあるけど、各々自由に食事などしてくれ。では解散!」
「……では、どうしますか?バロックさま」
「まあ……一択であろうな」





ホームズの言葉と共に、自然に部屋の振り分けのペアになり、各々が行動を始めた。
1日目は列車の移動が主な旅だったが、それなりに疲労があるため、皆部屋へ真っ先に向かっていった。

私も一息つきたいと思っていたので、バロックと共に5階の部屋へ行くことに決めた。
5階へは、左右の棟1つずつにある螺旋階段を上っていく。
少々大変ではあるが、階ごとの景色を見るのもまた一興だ。





「広いですね……迷いそうです」
「ふむ……複雑な場所もあるようだな」





基本この建物は左右対称に似た構造だが、中はくねっていたりして複雑な道もある。
階や番号をきちんと確認しながら進まないと、迷子は避けきれない。

螺旋階段を5階まで上り終え、左の棟へと向かう。
私たちの部屋はその一番奥にあるが、5階は客室だけでなく、他の目的で使われる大部屋などもあるため、廊下が所々曲がっている。
その曲がりくねった廊下を進み切って、他の部屋から隔離されたような気分になるところまで来た。





「ここか」
「なんだか……ここだけ違う空間のような気もします」
「……ホテルの構造だろうか」





疑問を抱きつつ、バロックが鍵を使って扉を開けた。

部屋の雰囲気は、落ち着きながらも主張があるクラシカルな感じで、二人部屋にしては広いほうだった。
ベッドにトランクを置くと、ずっと気になっていた、扉の真正面の方向にある窓へと駆けた。
そこには予想外の景色が広がっていた。





「まあ……!バロックさま、来てください!」
「なんだ」
「海が見えるんです!なんて綺麗なんでしょう……!」
「ほう……確かにな」
「ここは海沿いだったのですね」





窓の向こうに、直に沈む夕日と、それによってオレンジ色に染められた海が広がっていた。
海の手前には点々と木が生えており、その間から差し込む夕日が地面に映り、木漏れ日のようになっている。

左端のほうには、私たちが通ってきた観光街の灯りが煌めいていて、夜になればなお綺麗なのだろう。





「私……こうやって来たことのない場所で、バロックさまと過ごせるの、とても嬉しいです」
「ふ、どうした、突然」
「今回は、ホームズさんたち倫敦の方々、そして日本の方々と一緒に来ましたが……ほら、バロックさまと二人きりで旅行したことは無いでしょう?」
「……何せ、人見知りが激しかったからな」
「へへ、それは仕方ないです……」





10年間の間であっても、こうして倫敦から離れた場所に、バロックと二人きりで来たことがない。
今回の場合も、なぜか露骨に二人きりにされてるような気がするため、とても新鮮な気分なのだ。





「ならば。次は二人きりで連れてってやる」
「!……はい!楽しみにしてます!」





海の景色を存分に見尽くし、ほったらかしにしてあったトランクを開け、必要最低限のものだけ出しておくことにした。
ところで今更だが、ベッドに違和感を感じた。

部屋に入ってすぐ景色に目が行ってしまい、今まで不思議と思わなかったのだが……。





「バロックさま……なぜ、ベッドが一つなのでしょう」
「……まさか」
「?心当たりがあるのですか?」
「この主催はあの探偵だろう。手続きも部屋の鍵を渡してきたのもすべて……」
「……また、してやられたのですね」





バロックの言う通り、どう考えてもホームズの仕業にしか思えなかった。
列車の座席といい、私たちに気を遣っているのだろうか。
意図がわからないまま、荷物を広げるのを続ける。





「まあ気にすることではない。ミレイと一緒に寝ることは変わりないのだからな」
「っ、もう、直接言わないでください……」
「恥ずかしいのか」
「だめ、顔見ないでください……!」





ベッドのほうに聞こえる衣擦れの音。
腰を掴まれ抱き上げられたとき、その音がベッドの上に置かれたバロックの外套だとわかる。

顔から体までまんべんなく見つめられた後、そのままベッドに押し倒された。





「このまま一晩いくか?ミレイ」
「え、冗談言わないでください……さすがに無理です……」
「私は全然構わないのだが」
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