Sweet dreams-DGS

□大探偵の憂鬱
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今日は特に目的もなく、221Bに遊びに来ていた。
元々221Bの住人は友達、いや親友とも言える仲だし、何よりアイリスにいつでも来ていいよ、と言われていたのだ。

そして適当な時間を決めて、バロックに迎えに来てもらうことにしている。
普段は、221Bに来たらアイリスと遊んだり、ホームズに事件の話を聞かせてもらったり、美しいストラディバリウスの音色を聴かせてもらったりしているのだが……
今日はどうやら、いつもと様子が違うようだ。





「……えーっと……これは」
「……の世界だ……」
「もう手に負えないの」
「灰色の世界ッ!」
「きゃっ、もう、突然叫ばないでください……」





221Bへの扉をノックして、アイリスに出迎えられ、いつもの部屋に来たときからホームズの様子がおかしい。
アイリスは時々あることと言うが、私は見るのが初めてなため、正直困惑している。





「ミレイさん、見たまえ。なんて陰鬱な、灰色の世界でしょう」
「え……は、はあ」
「いかがです、ドロのようなコーヒーは」
「ドロ……ですか」
「はあああああ……」





見てわかる通り、ホームズが異常に落ち込んでいるのだ。
何がきっかけなのかさっぱり見当がつかないが、この世の終わりのような雰囲気だ。
しかも話しかけてくるたび、さりげなくソフトタッチをしてくる。

よかった、バロックがこの場にいなくて。





「ミレイちゃん。気にしなくていいんだよ」
「放っておけたらいいのですが……ほら、くっついてくるんですよ……」
「もーホームズくんったら。……もしかして、ミレイちゃんが原因?」
「え!?」
「ハッ!!」





アイリスが私が原因、なんて言い出すと、私だけでなくホームズもなぜか目を見開いていた。
カッ、と音がしそうなほど。





「あ、あれ、もしかして本当に……」
「……ミレイさん。今から、この灰色の世界に捧げるレクイエムを聴かせて差し上げよう」
「は、はあ」





ホームズが突然そんなことを言い出し、ゾンビのように部屋を歩き出し、愛用のストラディバリウスを持って来た。
初めは、彼がよく弾いているのだから、落ち込んでいる状態よりはこちらも気が楽だ、と思っていた。

足を肩幅に開き、バイオリンを弾く体勢になり、少し間を空けてから弾き始めた。





「!!……こ、これは……一体?」
「ミレイちゃん、耳栓いる?」
「そ、それは申し訳ないというか……」





いつもの綺麗な音色と違う。
まるで壁か何かを爪で引っ掻くような、女性の金切声のような音が、あのストラディバリウスからする。
それはストラディバリウスではないのでは、とも思ってしまうほどだ。

ここからがまた大変で、ホームズがレクイエムと称する曲は、気が遠くなるほど長く、終わりまで聴かされる羽目になった。





「大丈夫ー?」
「い、一応生きております……」





耳栓をしていてピンピンしていたアイリスが、私の元に駆け寄る。
ちなみにアイリスが、いちいち反応していては生活がままならないため、耳栓をしていたらしい。

すると、少々荒く扉がノックされた。





「!」
「もしかして、検事のお兄ちゃんかな?行こう!」





アイリスと手を繋いで、一緒に玄関へと駆けていく。
玄関に着いたと同時に、扉も開かれており、驚いた顔をしたバロックがいた。
どうやら、鍵が開いていたようだ。





「危なっかしいな……鍵くらい閉めればいいものを」
「バロックさま……!やっと来てくれた……」
「ミレイ?何かあったのか」
「検事のお兄ちゃん。部屋見てみて」
「部屋……?」





バロックの姿を見て、思わず安堵の声が漏れた。
アイリスに促され部屋を窺ったバロックは、案の定その様子に目が釘付けになっていた。

ただ一つ予想外とも言えるのは、非常に面白いものを見つけた、というような表情なところだろうか。
こんな表情は初めて、かと言われると、記憶にないこともあるので迷ってしまう。
いっぽう、未だにホームズは気づいていない様子だ。





「探偵、どういうことだ」
「……ああ、死神くんか」
「ときどきあるんだよー。あ、検事のお兄ちゃん来たってことは、ミレイちゃんお帰り?」
「そうですねぇ。もうお腹いっぱいです」





バロックの笑みは多少柔らかく、無表情に戻りつつも、完全に引っ込められてはいない。
その状態でホームズに話しかけるが、相変わらずのどんよりとした様子でホームズは返す。

準備など最初から必要ないが、帰る方向へと気持ちを切り替えようとしたとき、とんでもないことが起こった。





「ふえっ!?」
「!!」
「わお……!」





なんとホームズが突然、私の腰に抱き着いてきたのだ。
これには放任状態だったアイリスも反応を示し、何より本人がいなくても懸念があった、バロックの怒りに触れてしまった。
サーベルに手をかけ、今にも抜きそうな勢いでまくし立てた。





「おい探偵。何をこの世の終わりのような顔をしているのか知らぬが、我がミレイに触れたのだ文句は言えまい」
「わわわ、バロックさま、ですからお部屋の中でサーベルは……!」
「こらーホームズくん!なんかグレグソンくんが来てるみたいだよ!はーなーれーてー」





ホームズが落ち込んでいようがいまいが、221Bが愉快なのには変わりないのであった。



〜終〜
 

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