大逆転学園!

□理系だけがダメではない。全てだ
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「寿沙都……」
「その顔は……補習ですね?」
「さ、さすが寿沙都、よくわかったね。そういうことだから……」
「はい。今日もバンジークス先生ですか?」
「いや、今日はホームズ先生だよ。前回はさ、ホームズ先生が忙しかったから。そういうことで!」





ついにクラスメイトの寿沙都に、表情だけで理解されてしまった私は、補習の時間だ。
相変わらず理系だが、バンジークス先生ではなく今日はホームズ先生が来てくれる。
特にホームズ先生が得意なのは理科ということで、それを教えてくれるというわけだ。

教室で一人、教科書を開いて待っていると、優しく扉が開かれた。





「あ、ホームズ先生!」
「やあミレイ、これは久しぶりと言うべきかな?」
「それもそうですね!いやぁ、去年を思い出しますよ」





なぜホームズ先生が私の下の名前を呼ぶのかというと、なんとも私らしい理由で、
"あまりにも補習を含めて顔を合わせるものだから下でいいだろう"
ということだ。

ただ、二人きりのときだけだが。





「しかし、ミレイも懲りないね」
「あはは、それはどうも」
「……決して褒められることじゃないけどね」
「それよりホームズ先生、先生の生徒は?」
「ああ、たまに小テストを出していてね。それが良い点数だったら補習なし、ってしているわけだ」
「……優しいっすね……」





頭の中に、うちの担任を思い浮かべる。
小規模なテストは私のクラスでも出るが、そんな易しいものではない。
補習なしは天国であり、点数が低ければお仕置きだ。

しかし最近、そのお仕置きは私限定ときている。





「バンジークス、やっぱり厳しいのかい?」
「も、もう!厳しいって言葉じゃ片づけられないですよ!……私に集中砲火が、特に」
「ははっ!それは最高だね!」
「最高じゃないですよーー!!」





まったく、どんなお仕置きを受けているのか知らないくせに、ホームズ先生は腹を抱えて大笑いしている。
"愛のムチだね"、なんて言ったときは脇腹をつねってやった。





「ふう、笑った笑った。大笑いさせてくれてありがとう」
「……嬉しくないです」
「あ!このままじゃ時間が無くなってしまう。早速取り掛かるよ」
「はぁい。先生、確か化学……」





私の言葉を遮ったのは、何の音だろう。
できれば、考えるのは皆の衆にしてほしい。なぜなら考えたくないからだ。

来ない確証は無いが、来る確証だって無かったのだ。
少しは現実逃避させてほしい。





「やあ!ちょうどいいところに来たね」
「……お取込み中だっただろうか」
「いいや?世間話に花が咲いてしまってね、埒が明かないから始めようとしたところだよ」
「それはいいが、そちらで死んだような顔をしているのは?」
「あれ、いつの間に」





魂が抜けたようになって、ぼうっと教科書を見つめていると、後ろから顎を掴まれ上に向かされた。
幻聴だろうか、首の骨が鳴った気がする。
それよりも、上には殺気立って睨んでいる人がいた。





「……い、痛いです……バンジークス先生……」
「生きていたか」
「ひ、ひどいですよ!」
「ふん。ホームズ、少しばかり"傍聴"させてもらって構わないだろう?」
「もちろん。君の大事な生徒に、しっかりと教えてみせよう。ね、ミレイ?」
「へ、へい、承知しました……」





顎を強引に掴まれたまま、二人の教師の間で会話が繰り広げられる。
一通り終わると、バンジークス先生が耳打ちをしてきた。
ホームズ先生に聞こえないほどこっそりだったので、なるべく小さい声で答えた。





「おい、なぜホームズは貴様を名前で呼ぶ?」
「ほ、補習しすぎて仲がいいんですよ……皆の前では呼びませんけど」
「…………」





普通に答えただけなのだが、バンジークス先生の表情が更に硬くなってしまった。
気に入らないことでもあったのだろうか。

するとやっと顎から手を離してくれて、補習に戻ることができた。





「まずね。理科は実験ありきだ。だが試験ということを考えれば、用語を覚えておくことも重要。わかるかい?」
「に、西から太陽が昇るくらいは、わかります!」
「……神血、逆だ」
「えっ!」





こればかりは覚えておくべきだと、歌を口ずさんで覚えたのに……!
どうやら、逆にするという作業が抜けていたようだった。
これには教師陣二人も困っていた。





「とにかく、教科書に沿ってやっていこう。ところどころ、役立つ知識があれば教えるからね」
「さ、さすがホームズ先生……!」





ホームズ先生に教えてもらえば、きっと小テストだけでなく期末試験なども安心かもしれない。
そもそも、バンジークス先生もそうなのだが、教えるのがたいへん上手だ。
前の数学も、8割は正解するという快挙だったし。

用語を色付きのペンで書いて、そこに教科書通りに書いてから、ホームズ先生直々の知識を書くというのを繰り返していた。
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