大逆転学園!

□ドキドキ!初めての補習
1ページ/1ページ

「ねえ寿沙都。ほんとにごめん、今日補習があって……」
「まあ、そうでしたか。気にしなくてもよろしいですよ!お勉強頑張ってくださいませ!」
「う、うんありがとう……帰り道気をつけて……」





勉強頑張れというのは、ここでは激励になるのか否か。

さて。今日はまだ新しい学年で数週間しか経っていないのに、補習だ。しかもバンジークス先生との初めての補習。
今私の教室には私だけで、バンジークス先生は職員室に行っている。戻ってきたら即補習が始まるのだろう。

補習なんて、担任がホームズ先生だった時からお世話になっているから、緊張なんて欠片もないはずだった。
しかし、これがバンジークス先生となるとそうはいかない。
一体どのような物理的暴力、また精神的暴力がふるわれるのか。





「神血。まずはこの問題を解け」
「わっ!ビックリした!」
「ぼうっとしているからだ。さっさとやれ」
「はーい……って、今日は数学じゃないですか。バンジークス先生が?」
「……同学年のホームズは、ホームズの生徒だけで精一杯だ。それに、私は理系もできる」
「オールマイティーですね〜。あれ、マルチタスク?」
「どっちでもよい」





どうやら、ただでさえ音のする扉の音すら聞こえていなかったようで、バンジークス先生が急に話しかけてきて素で驚いてしまった。
余談だが、去年私の担任だったホームズ先生は、持ちあがりで同学年他クラスの担任で、理系に強いため他のクラスの補習も手伝っているらしい。
ただ今日は悲惨な生徒がいたみたいだ。





「げ……代入、って……何よ代入って……」
「……ちゃんと今までやってきたのか」
「やってたら今座ってないです……」
「そうだな」
「あっさり認めないでください!」
「……チッ、仕方ない」





ただでさえ数字の式すら解くのに苦労する私に、aとかbは卑怯だと思う。
そう愚痴をこぼしていると、躊躇わず舌打ちをし、先生用の椅子に座っていたバンジークス先生がこちらに来た。
え、まさか教えてくれるんじゃ……。





「公式がわかれば大体わかる。ここに書くからやってみろ」
「は、はあ……」





バンジークス先生は私の前の席に座り、椅子を横に向けて座った。
先生の癖なのか、また足を組みながら横目に私を見る。
そして先生が持ってきた問題用紙に、先生はまるで英語の筆記体でも書くように、止まることなく文字を記していったのだ。





「わあ……」
「いいか。これと解き方を叩き込んで応用する力があればできる」
「…………」





これは黒魔術なのだろうか。公式は特に基礎なのに、基礎とか易しいものではない。一種の呪いである。
これがわかればできるとバンジークス先生は言うが、砦はここにあるのだ。





「何を地獄にいるような顔をしている」
「既に地獄です……」
「……もしできたら。褒美をやる」
「えっ!……あ、でもご褒美制だと馬鹿になっちゃいますよ」
「頻繁にはやらん。そうでもないと貴様はやろうとしないだろう」
「う、そうかも……」
「褒美は考えておく。やれ」





相変わらずバンジークス先生は偉そうだが、私は"褒美をやる"だけで簡単にやる気になった。
問題を先生が書いてくれた公式と見比べて、唸りながら解いてるときにふと思った。

あれ、これって私がバンジークス先生のご褒美を楽しみにしてる、ってこと?……と。
それはまさしく式でいう、イコール先生のことが……とならないかということ。
しかし言い出しっぺである本人は、なぜか私の教科書を読んでいた。

鞄から抜き出したのか。





「……はあああっ!!お、終わった……」
「……ノロノロだったが全部やったな」
「私にしては上出来だと思いませんか」
「……ふん」





ふんとはなんだ、ふんって。

それにしても、本当に私にしては上出来なのだ。
正解か否かは置いておき、全問何かしら書けている。空白常習犯なのだ。
バンジークス先生は問題用紙をチェックしているが、怖い。





「間違えているのは片手ほど、か」
「え……!!快挙じゃないですかー!」
「確かに。貴様にしてはよくできているな」
「先生のおかげですよ!ありがとうございますっ!」





間違いは片手ほどということは、5問以下ということ。
半分以上間違えているのが当たり前だった私には、本当に快挙である。

それより、私はきちんと教えてくれたバンジークス先生に感謝しているからお礼を言ったのだが―。





「……褒美が決まった」
「え?」





突然バンジークス先生が私の顎を手で引いて、顔を近づけた。
まさか”アレ”をされるのでは、と思ったが、先生は耳に口元を近づけ、ふっと息を吹きかけたのだ。

体がまるで寒さに耐えるように震えた。
でも、体温はだんだん高まっている。





「あ……あ、せんせ、い……」
「ふっ、補習はここまでだ。帰っていい」
「……は、はい……」





バンジークス先生は、始業式から経って間もないときのようににやりと笑っていた。
―体が熱くて、どうしようもない。



***
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ