大逆転学園!

□お弁当
1ページ/1ページ

「神血、くれ」
「やだ。やんないもんっ」
「な、なんでだ!?」
「だっていつも全部食べちゃうじゃない!……まあまだ一真はいいよ。そこの龍之介だよ」
「え?僕がなんですか?」
「はあ……」





現在はお昼休み。私が解放的になれる時間だ。
メンバーは今の会話で大体わかると思うが、クラスメイトの成歩堂龍之介、亜双儀一真、そして寿沙都も一緒だ。

何で言い合いをしていたかというと、まずこのメンバーは都度弁当なのだ。もちろん購買はある。
だからよく弁当の中身をシェアするのだが……龍之介と一真がいつも食べてしまうのだ!

特におかずをカス一つ残さず。





「お二人様。年頃でお腹が空くのはわかりますが、自分のものを食べてくださいまし」
「だって寿沙都さん。目の前の食べ物は食べてこそ……」
「あくまでもミレイさまのものでございます」
「もう大丈夫だよ、寿沙都。……二人分作ってあげよっか」
「え!!」
「冗談だよバカ」





同年齢に説教をする寿沙都、言葉を真に受ける龍之介、それを呆れて見ている一真。
傍から見たら言い合いだけのようだが、一番日常的で穏やかな時間だ。
そして、そこでおかずの王道―卵焼きを口にすることの幸福!

今日も美味しくできてるかな〜……。





「あー……ん?え?」
「わ……」





箸でつまんだ卵焼きは、口の中に入れられた。
―他の人の口に。

私と寿沙都は変な声を上げ、龍之介と一真に至っては石のように固まってしまった。
いや、存在を気づかれないようにしているのかもしれない。





「ん……甘さがあって美味いが、もう少し塩分を追加してもいい」
「ば、バンジークス先生……何を……?」
「見回りに決まっているだろう」
「もう昼食は……」
「食べ終わった」





突如私の後ろに回り、そこから私の手ごと引っ張って己の口に卵焼きを放り込んだのは、バンジークス先生。
異様に緊張してしまって、ゆるゆるが発動できない。

すると、寿沙都たちが弁当をしまい始めた。
あれ、まさか。





「ちょっと皆!私を置いてかないでー!」
「まだミレイさまは残りがありますでしょう?ゆっくりしてください」
「そうだぞ、神血。おかずは今度食べるからな」
「まだ僕たちの分の弁当作るの、忘れてないですからね〜!」
「あああああ」





そう言ってそそくさと帰っていった。
特に男二人、ひどい。

絶対わざとに違いないが、バンジークス先生と二人きりになってしまった。
あー、見回りに戻ってくれないかな……。
と思っていたら、隣に腰掛けてしまった。帰る気なんてさらさらないんだろう。





「あ!そ、その……卵焼き、お、美味しかったってことで……?」
「……好きに解釈しろ」
「はあ……とにかく、塩追加してみますね」
「貴様が作っているのか?」
「はい、そうです。あ、別に複雑な事情とかじゃなくて。こう……料理は出来といたほうがいいっていう、母の方針?」
「……そうか」





バンジークス先生はそれっきり黙ってしまった。
何か考え事でもしているのだろうか。

しばらく沈黙していると、先生が立ち上がってこんなことを言ってきた。





「おい、神血」
「な、なんですか」
「卵焼き、明日も食べに来るからな」
「え……」





そして見回りか授業の準備か、バンジークス先生は校舎の奥に消えていった。
おそらく、塩分を追加しろという思いも込めて。

―その次の日、弁当を作る際には塩を目分量で追加した。
もちろんのこと先生は食べに来て、”まあまあ”と偉そうに言って戻って行った。





「あれ、もうほとんど先生のために作ってるんじゃ……」
「そうすればいい」
「え。……じゃ、じゃあ!昨日卵焼き勝手に食べたのも、私に作らせるため」
「黙れ」



***
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ