大逆転学園!

□ゴーストの右腕
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「そういえば、夏休みって修学旅行があるよね?」
「ああ。そうだが」
「バンジークス先生とホームズ先生はクラス持ちだから、絶対行くでしょ。私は?」
「生徒が怪我したり体調を悪くしたりした時のために、ついて行くことになるんじゃないかな?」
「あ、そっか。じゃあドレッバー先生は?」
「……オレですか?」





生徒が各々家路につく夕刻。
もはやアフタヌーンティーの時間と化している中、仲良し教師4人組は夏休みの修学旅行の話題になった。

ちなみにバンジークス先生とホームズ先生は去年から持ち上がりでクラスを持っており、現在担任をしている学年が修学旅行に行くのだ。
私は養護教諭だからまあ行かなきゃならないとして。
一つどうも気になることがあるのだ。





「せっかく3人揃ったのに、ドレッバー先生が行かないなんて私嫌!ひとりぼっちにさせたくないー!」
「……」
「子供か」
「だってホテルか旅館に泊まるんでしょ?晩酌でもしてやれって思ってるのに、4人揃わないなんてつまらないわ」
「いや、さすがに晩酌は無理だと思うぞ」
「オレは別にいいんですけど」
「いけずねぇ、博士は」





教師が一緒について行くとはいえ、相手が小学生なわけではない。
判断は生徒に委ねるようにして、子供だけでは対処できないことを私たちがする。それが修学旅行の方針でもある。

だからさすがに泊まるときは自由にできると思ってるのに!





「何なら、校長か教頭に交渉してみたらどうだい?」
「げ、あのゴースト校長と教頭に……?」
「まあ、確かに決定権はあの二人にあると言える」
「ミレイ先生、そんなメンタルあります?まあ無かったとしてもついて行きませんが」
「くぅ、サディストめ。……でもやっぱいないのは嫌だ!ちょっと行ってくるわ!」
「お、アクティブだね」





勢いと共に私は校長室へと向かった。
しかし、歩みを進めるたび鉛をつけたように重くなる。

そもそもあの教師ども、校長と教頭を誰だと思ってるの?
校長室なんて真夏だろうが気温が数度低いし、校長と目を合わせれば体が固まってしまう。
メデューサなのでは?という噂もあるほどだ。

それに加え教頭はそんな校長の右腕とまで言われている。
秘密組織じゃないんだから。





「はあ……重いわ。いろいろと」





学校の中で一番豪勢で存在感を放つ木製の扉。
それは見上げるほどに大きく、校長の意匠なのかところどころ歯車の形をしたものが彫られていた。

ため息をつきながらその扉を叩く。
中からは女性の声が聞こえた。





「どなたですか」
「養護教諭の神血ミレイです。お話があって来ました」
「……入りなさい」





中に入ると、いたのは声の主だけ。
そう、校長ではなく……。





「養護教諭の貴方が、何のご用かしら」
「シス教頭。……夏休みの、修学旅行の件ですが」
「もう少し先の話ですよ」
「ええ、承知です。……我々教師からは、如何ほどついて行くのかと思いまして」





コートニー・シス教頭。
校長の右腕とも言われるほどだから、声だけで冷たさと威厳を感じさせる。
ということは校長はその数倍ということだ。

私にしては至極丁寧な喋り方で言葉を紡ぐ。
あの3人に見せてあげたい。





「先ほども言った通り。まだ先の話ですので詳細は決まっていません。……ご希望がおありで?」
「……ええ、まあ」
「まず貴方は養護教諭ですから絶対です。それに異論は」
「ありません。そのために私がおりますので」
「……いいでしょう。希望があれば言いなさい。まだ選考している途中ですから希望は受け入れましょう」





この流れで言いにくいけど、ドレッバー先生を希望に出した。
もちろんシス教頭は最初は驚きと戸惑いを見せていて、
『き、機械に強いので必須かと』
というどう考えても通らない理由を出してしまった。

だって、個人的な希望だもの!





「その言い分はよくわかりませんが。……まあ、いいでしょう」
「えっ、ほ、本当ですか?」
「担任ではないとはいえ、彼は×年の授業を多く担当しています。学年と深く関わりがあるほうが大事の際にも良いでしょう」
「た、確かに」
「それでよろしいですね?」
「は、はい!ありがとうございました!」





これで無事、戦いは終わった。
さあ早く、あの3人に報告しなくては。





「皆あああただいまーー!!」
「あ、おかえりなさい」
「結果は?」
「なんとね、交渉OK!やったね博士、一緒に行けるよ!」
「は、はあ」





弾むような足取りで戻るなり、ドレッバー先生の手をぶんぶんと振った。





「誰に話してきたのだ」
「校長先生がいなかったから、シス教頭に。まあとっても怖かったけどね!」
「よく通りましたね」
「シス教頭も飲み込みがよかったの。私『機械に強いから必須ですよ』とか言っちゃって」
「それはさすがにシス教頭の理解力のおかげだな」
「何勝手にオレをメカニック扱いしてるんですか」
「え?違うの?」





健闘の証か、クッキーと紅茶がいつもより一層美味しく感じる。
あ、新学期の宣言通りちゃんと持って来たんだよ!

するとバンジークス先生がこんなことを訊ねてきた。





「ところで、なぜ校長を"ゴースト"と呼んでいるのだ?」
「え、だっていっつもいないじゃない。見るのは大事な行事だけ。幽霊なんじゃないかって思ってるから」
「……お忙しいからな」





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