大逆転学園!

□まさに公開処刑
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運命の日から数日。
そう、数日しか経っていないのだが、バンジークス先生、

『公の場では控えるが……』

とかなんとか言ったくせに、スイッチが押されたのか切れたのか、スキンシップの程度が急に増してきたのだ。
触れるということも増えてはきたが、それよりも非物理的な距離だ。
これは関係が怪しまれる、なんてことは必須だと思ってしまう出来事があった。





「ミレイさま、最近バンジークス先生と何かございました?」
「なななな何、寿沙都……」
「嘘が下手でございます。何かあったのですね?」
「そ、それは……」





すると、校内放送を表すチャイムが鳴った。
特に何が現れるでもないのに、スピーカーを見つめてしまうのが学生のさがである。

そのため、意識の半分は校内放送に向けられたのだが……。





『……×年×組、神血ミレイ。今すぐ×組の隣の部屋に来い。すぐに来ないと……わかったな?』
「……」
「……」





……すべてが白日の下に晒された……。

クラスメイトの視線が痛い。
睨む目や、哀れみからか眉を下げる者、口をポカンと開けている者……。
寿沙都だけでなく、龍之介と一真に見られた日には、私はどうすればいいのか。





「大丈夫です、ミレイさま!何も確定したわけではございません。それよりも行くのです!」
「……そ、そうだね……それよりも寿沙都」
「はい?」
「確定するか否かよりも、校内放送で"バンジークス先生に"呼ばれたことが既に……公開処刑なんだよ」





ヒーローモノのキャラクターばりにセリフを吐いた私は、これから戦いに行く戦士の如く教室を出て行った。
まあ、その戦地は大体数歩のところなのだが。

今向かっている部屋は、私たちが使っている教室と同じ間取りの部屋なのだが、
十数年前、それよりも以前に比べて生徒数が減り、空きの教室が出来たため、生徒が使う教材などを置いたりしているのだ。





「……入りたくない……」





扉の前に佇み、思わず本音を零してしまった。
とにかく早く入らないと、何かされるという危惧以上のことをされかねないので、腹をくくって扉を開けた。





「し、失礼します……」
「遅い」
「はぁ!?寧ろ最速だと思いませんか?というかフロアすら変わってないのにこん」
「口を塞がれたいのか?いいから適当に座れ」
「むぐぐ……ひ、一つだけ異議があります」





中に入ると、部屋を埋め尽くすのでは、というほどの冊子や紙に紛れて、
腹が立つくらい長く美しい足を机に乗せ、堂々たる姿のバンジークス先生。
"遅い"の一言に早速カチンと来てしまうが、片手で口が包み込まれてしまい、おとなしくそこら辺に座った。





「ほう?私に異議を申し立てるつもりか」
「は、はい。なんで……わざわざ校内放送使ったんですか!」
「……」
「大体教室からここまで言っちゃえば数歩ですよ?もし用があるなら教室に来てくれればー!私のクラスメイトはともかく、学校中に知られましたよぉ……」
「……」
「……疲れた」
「まず……ここにもマイクがある」
「へ?」





私の怒涛の異議をまくし立てた後、途中でバンジークス先生が立ち上がった。
何をするつもりなのかと様子を窺っていると、どこかのクラスの紙を無造作にはねのけた。
あれ?それ使うものじゃないのか?

その下からは、ラジオでもできそうな立派なマイク。





「な、なんでこんなところに、都合よく……」
「放送室は教室と違う棟にあるだろう?それだと生徒に手間がかかる。そのためにここに作られた」
「な、な……」
「あと貴様、"学校中に知られた"と言ったな?」
「へ、へぇ」
「それも目的だ」
「いやあああぁぁぁ……」





思わず、いずれ私たちも使うかもしれない教材に倒れ込んでしまった。
いや、使ったやつでもいけないか。

すると、その教材がなぜか遠ざかった。
重力が下に向かっているのを感じるが、なぜか上に引き上げられているような感覚だ。
――持ち上げられている。





「っぅうえ!?」
「静かにしろ」
「なななななんですか!?じゅ、重力に逆らっちゃいけません!」
「何を言っているのだ。あと少しでも降りようとしたら……」
「ひ、ひああぁ」





教材に向かって謝罪でもしようかと思っていると、バンザイさせるようにバンジークス先生が私を持ち上げ、
更には先生の膝の上に座らされたのだ。

腰には先生の腕が回され、おそらく私の頭は先生の胸元あたりにあるだろう。
先生が喋ったり、呼吸をする時の息が肌にかかるものだから、恥ずかしいったらない。
そして降りようとすれば地獄行き。今いても地獄なのか?





「ミレイ」
「っえう、は、はい」
「……さっきから変な声ばかり出しすぎだ」
「だ、だって……!先生が、変なことしたり、急に名前呼んだり……!」
「ふっ」





あ、珍しくバンジークス先生が優しく笑った。
どうしよう、さっきまでのことがどうでもよくなってきた。





「いいか?ここにある書類を教科ごとに分けろ」
「え?雑用ですか?」
「では何のために呼んだと思っているのだ」
「……てっきり二人きりになりたかったのかと……」
「ああ、それもだ」
「やっぱりー!!」
「わかったら早くやれ。あと言っておくが、国語は現代文、古文ときちんと分けるんだぞ」
「え?それも?」





前言撤回。
来なければよかっ……いや、来ないほうが悪いことがあったろうから、せめてバンジークス先生に惚れ直しそうになったことを改めよう。

っていうか書類ってテストじゃないか。
わざとなのか教科がごっちゃになっていて、なかなか同じ強化にたどり着けない。
ちなみにテストは近いうちにやるものだから、全部白紙である。

生徒である私に見せてもいいのだろうか?





「……」
「……意外と真面目にやるんだな」
「なんですかそれ。先生がいる前で気抜けないでしょう?」
「それもあると思うが……普段から緊張感の無い貴様が、私がいるだけでそう変わると思うか?」
「……結局、何が言いたいんです?」
「……」





緊張感が無いは余計だが、おそらくバンジークス先生からの最高の褒め言葉なんだろう。
教科が混ざりに混ざっている書類に手を焼いていたが、思わず笑みがこぼれた。





「……よし。……はー!!終わったああ!!」
「貴様にしてはよくやったほうだ」
「もうなんでこんな多いんだろう……」
「ミレイ、ご褒美だ」
「ふぇ?」





脱力しながらバンジークス先生のほうを振り返ると、鼻の先に口づけをされた。
唇に近い場所にドキリとした反面、なぜ鼻なんだろう?とはてなマークが浮かんだ。





「先生……?」
「意味は自分で調べろ」
「…………あ!もう時間が!先生、失礼します!」





あやふやにされてしまうと、既に授業の時間に近づいていることに気づき、慌てて教室を出た。
あまりにもあっさりした別れで申し訳ないと思ったが、追いかけてこないから大丈夫そう。

――後に、鼻へのキスの意味を調べて赤面する私であった。



***

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